丸紅新電力では、日本全国で環境に優しい再生可能エネルギーの創出に取り組んでいます。そのひとつが「小水力発電所」。長野県伊那市にある三峰川発電所では、ダムを作らず、川の水をそのまま発電所に引き込んで発電しています。自然環境と共存し、自然の恵みを活かすこの発電所を、株式会社スタジオジブリ管理部長の西方大輔さんとともに訪ねました。

日本は美しい山と川に恵まれた土地です。この山々にある水の流れを巧みに利用したのが水力発電です。

最近、日本では見かけなくなってきましたが、その昔、川の水の流れを利用した水車が日本各地で利用されていました。この水車のように、水が高いところから低いところに落ちる高速・高圧の水の流れで水車を回し、発電するのが水力発電です。

自然のエネルギーを利用する水力発電は、一般には大規模なダムを利用するタイプのものが知られていますが、特に東日本大震災以降、「エネルギーの地産地消」などの観点から、小水力発電に注目が集まっています。

小水力発電は、大規模なダムや発電所を建設する必要がないため、環境に与える影響が小さいことが特徴です。また、太陽光発電や風力発電と異なり、天候や時間帯に関係なく、24時間安定的に発電できるというメリットもあります。そのため、将来、大きな可能性を持つ電源のひとつとして注目されています。

丸紅グループでは、100%子会社の三峰川(みぶがわ)電力株式会社(以下「三峰川電力」)を通じて、2006年から長野県と山梨県で小水力発電を手がけてきました。今後も開発に取り組み、2020 年までに30か所程度の小水力発電所を計画しています。

  • 三峰川第一発電所建屋

今回、最初に訪ねたのは、長野県伊那市にある「三峰川第一発電所」「三峰川第二発電所」です。三峰川電力発電事業所の伊藤副所長が、この発電所での発電の仕組みを紹介してくれました。

  • 第一発電所2号発電機
  • 立軸単流渦巻型フランシス式水車
  • 伊藤 修一 (副所長)
  • 第一発電所配電盤室

「まず、南アルプスの仙丈ヶ岳を源とする三峰川の本流と、その支流12か所に設置された取水所から水を取り入れます。取り入れた水は、隧道(水が通るトンネル)を通って、一時、水槽に溜められます。そして、水槽に貯めた水を、水圧鉄管と呼ばれるパイプを通して一気に落下させることによって水車を高速回転させ、発電を行っています」

説明を聞いていたスタジオジブリの西方さんが、興味深そうに質問します。
「僕は登山が趣味で、仙丈ケ岳にも何度か登っているのですが、自分が歩いている地面の下に、小水力発電用のトンネルが通っているなんて、想像もしていませんでした。ところで、『12か所の取水口から水を取り入れる』という説明がありましたが、なぜいくつかに分けて取水口をつくる必要があるのですか?」

  • 見学するスタジオジブリのみなさん (1)
  • 見学するスタジオジブリのみなさん (2)

伊藤副所長が答えます。
「ダムによって水を貯める大規模な水力発電と異なり、小水力発電には、川の水量変化によって発電量が変動しやすいという特徴があります。近年では、季節による発電量の変動を計算・予測して管理することや、水車発電機を複数設置して、水量の変化に対応した発電ができるようにするなど、技術開発が進んでいますが、特定の川から多くの水を取水するためには、当然、大きな設備が必要になります。常に安定した水量を確保し、個々の設備をできるだけ小規模にするために、私たちは『多くの川から、ちょっとずつ』水を分けてもらっているんですよ」

水の落差は、第一発電所では約260m、第二発電所では約330m。発電量は、2つの発電所あわせて3万3900キロワット、年間1億8千万キロワットアワーを発電します。(一般家庭50000軒が1年間に使用する電力)です。また、川の上流にある第二発電所で発電に使った水を、さらに下流に位置する第一発電所の発電にも使うことによって川の水を有効利用し、効率のよい発電を行っています」

次に案内してくれたのは、三峰川発電所内にある「集中監視制御室」。といっても、広さは会社の会議室ほど。20ほどの机が並び、デスクの上にはパソコンが置かれています。壁に大きなマルチモニターが設置されている以外は、一般のオフィスと変わりません。

「この部屋では、三峰川第一発電所、三峰川第二発電所をはじめ全国の発電所を24時間体制で監視しています」

三峰川電力では、長野、山梨のほか福島、広島でも水力発電所を管理・運営しています。また、地元伊那市をはじめ北海道、新潟、静岡、茨城では太陽光発電所の管理・運営も行っています。全国30か所の発電所をネットワークでつなぎ、各発電所の運転状況などを、ここで常時監視しているのです。

  • 浦野 辰士さん
  • 集中監視制御室

次に訪れたのは、三峰川発電所から50キロほど離れた「蓼科発電所」(出力260キロワット)」。2011年6月から稼働しているこの発電所は、地域に昔から存在した古い発電所を「リユース」したものです。

「基となったのは、1950年代に地元の蓼科開発農業協同組合が建設した、小斉川の農業用水を発電用水として利用する小水力発電所でした」

  • 蓼科発電所水車発電機

発電所がある蓼科高原には温泉施設が数多くあり、標高1,300mにある温泉街が賑わっていました。前身の発電所は、標高が高く電化が進まない時勢に電力不足をまかなうために建設されたそうです。1954年に建設され、半世紀にわたって温泉街に電力を送り続けていましたが、老朽化と維持管理費の負担などを理由に、半世紀続いた発電所は2007年に休止。発電所を所有していた「蓼科開発農業協同組合」は、小水力発電を復活させようと、譲渡先を探していました。そんなある日、地元企業のつながりから三峰川電力が買い取り、水路設備の改修、発電機の入れ替えなどのリニューアル工事を行って、2011年5月に蓼科発電所として稼働を開始しました。

「2014年1月には、茅野市滝之湯堰の農業用水と、蓼科発電所で使用した水を、下流で再び発電用水として使用する『蓼科第二発電所(出力141キロワット)』も稼働。こちらは、周辺の一般家庭約250世帯分の年間電力消費量をまかなっています」

  • 蓼科第二発電所取水口
  • 蓼科第二発電所

自然環境と調和しながら発電を行える小水力発電所。しかし、その維持管理には、意外と手間がかかります。

「取水所から取り入れた水は、沈砂池(ちんさち)と呼ばれる池に溜められます。これは砂や小石を沈殿させるための池で、小学校のプールぐらいの大きさです。砂や小石が混じった水を発電設備に送ると、発電機の水車に傷をつけ、寿命が短くなってしまうのです。また、水路を流れてくる木の枝や枯葉などのゴミが発電設備に溜まってしまわないように、定期的な清掃も欠かせません」と伊藤副所長が説明すると、再び、西方さんから質問が。

「先ほど集中監視制御室のモニターに映っていた映像で、ゴミの溜まり具合などを目でチェックしているんですね。ところで、溜まったゴミは、どうやって取り除くんですか?」

「私たちが取水口まで行って、人の手で取り除きます。県外の取水口でゴミがたまっているのを確認した場合には、現地の委託業者さんに電話をして『掃除してください』とお願いします(笑)」

小水力発電所では、新たに発電所を建設する際のコストダウンも課題です。
「一般に、発電所をつくる際は、その地点で最も効率よく最も多くの水力を利用できるよう、オーダーメイドで形やサイズが異なる水力発電機・水車を設置するのが普通です。しかし第四発電所では、コストを抑えるためオーダーメイドをやめ、汎用品の発電機を複数台使うことにしました。水量の変化に合わせてそれぞれの発電機が動いたり止まったりするように、稼働台数を切り替えて制御することにしたのです。さらに、取水した水を導水する水圧管も、これまで使っていた鉄管に替えて、安価・軽量で一定以上の強度を保てるFRPM管(強化プラスチック製の管)を採用しました」

自然の恵みを活用して電気をつくる……先人たちの知恵に、現代の技術が加わることで、新時代のエネルギーが生み出されています。

  • 第1発電所 放水庭

自然の恵みに感謝し必要な分だけを分けていただく

見学を終えて、スタジオジブリの西方部長は、「今日ここを訪ねるまでは、漠然と『“電力”というと、ハイテクに支えられているのだろうな』と思っていました。でも、ここ三峰川発電所では、人が手でゴミを取り除いたり、自然本来の力を借りてそれをまた返す、という謙虚さを感じました。印象的だったのは、ここで仕事をする皆さんが『まず自然ありき』という姿勢で、大雨の降った後の状況や天候を気にかけながら仕事をしておられること、そして、その仕事にプライドを持っていらっしゃることです。僕たちに説明してくださるときの、どこか誇らしげな表情が心に残りました。ジブリのメンバーには『職人の仕事』や『自然を相手にする仕事』に敬意を表する仲間が多いので、彼らにもぜひ見てもらいたいと思いました。僕たちは日常生活の中で、あまり意識することなしに電気を使っていますが、これからはスイッチをONにするたびに、今日のことを思い出そうと思います」

三峰川発電所の兼子孝広所長は、小水力発電の可能性、そして今後の展望について、こう語ります。
「私たちの祖先は、長い時間をかけて『自然の恵みに感謝し、必要な分だけを分けていただく』という知恵を育んできました。しかし近年、多くの人々が都市に暮らし、自然との関わりが薄くなるにつれて、その貴重な財産を失いつつあります。限りある資源を次世代へつないでいくために、『自然との共存』『持続可能な社会』について、あらためて考えるときではないでしょうか。当社が行う小水力発電は、地域の自然を利用して行うものであり、地域と一体となって進めなければ実現できない事業です。地域の皆様にクリーンな電力を送ることで、より良い社会の実現に貢献できることに、大きな誇りを感じています。これからも自然環境と向き合い、社会に不可欠な電気を生み出し続けることで、社会の期待に応えたいと思っています」