最終保障供給とは?仕組みや料金についてわかりやすく解説
2016年4月に電力の小売全面自由化がされ、一般家庭も含む全ての需要家が、電力会社や料金メニューを自由に選べるようになりました[1]。
電力小売事業への新規参入が増加し価格競争が起こったものの、2022年に卸売電力市場の市場価格が高騰し、電力の調達コストが大幅に増加した結果、採算が見合わず一部の小売電気事業者が倒産・撤退、新規契約を控える動きなどが見られました。
このような状況が起きても、需要家への電力供給が継続するよう最後の砦となる仕組みが最終保障供給制度です。
本記事では、最終保障供給の仕組みや、利用する際の注意点、2022年9月以降の制度改正による料金の値上げについて解説します[2]。
[1]経済産業省 資源エネルギー庁「電力の小売全面自由化って何?」
[2]関西電力送配電株式会社「2022年9月1日以降の最終保障供給料金の変更について(2022/8/10掲載)」
>> 【法人のお客様向け】高圧・特別高圧の電力プランはこちら
目次
最終保障供給とは?
最終保障供給とは、全ての需要家が電気の供給を受けられることを担保するセーフティーネットです[2]。
2016年4月に電力の小売全面自由化がされて以降、新規参入した電力会社(新電力)からも電気の供給を受けられるようになりました[1]。
ただ、新電力のうち、自前の発電設備を持たない事業者は、供給する電気の大部分を卸電力市場に頼っています。そのため、卸電力市場における価格が高騰すると、電気の調達コストが上昇し、事業継続に必要な利益を確保できない事態が生じる構造になっており、2022年には実際に、資源大国であるロシアのウクライナ侵攻や、新興国のエネルギー需要の高まりなどの要因が重なり、原油やLNG(液化天然ガス)などの燃料価格が高騰し、帝国データバンクが行った2023年3月の調査では、新電力の約27%(195社)が契約停止や事業撤退、倒産に追い込まれました[3][4]。
※丸紅グループでは20か所以上の国内発電所を所有し、20年以上にわたって安定した供給を実現しています。
しかし、契約していたサービスが突然停止しても、電最終保障供給制度がセーフティーネットとして機能するため、電力の供給が停止し、需要家が新たな契約先を見つけられない「電力難民」になることはありません。電気事業法の「最終保障供給」では、“どの事業者とも供給条件が整わない需要家や、それまで電気の供給を受けていた事業者が何らかの理由で撤退してしまった需要家に対して、他の事業者と契約するまでの間、最終的な電気の供給を担保できるよう、地域の一般送配電事業者(東京電力パワーグリッド等)が電気の供給義務を負う”とされています[5]。
2024年7月の時点で、最終保障供給の契約件数は3,761件です[6]。後述する最終保障供給制度の見直しなどの要因により、契約件数は減少傾向にあります。
参照:経済産業省 電力・ガス取引監視等委員会「令和5年7月3日時点における最終保障供給契約件数を公表いたしました」
経済産業省 電力・ガス取引監視等委員会「令和6年7月1日時点における最終保障供給契約件数を公表いたしました」
[3]経済産業省 METI Journal ONLINE「岐路に立つ新電力。利用者の安心を守る電取委の「次の一手」は」
[4]株式会社帝国データバンク「「新電力会社」事業撤退動向調査(2023年3月)」
[5]経済産業省 METI Journal ONLINE「電気の最終保障供給制度、電力スポット市場の状況変化に合わせ9月から制度を見直し」
[6]経済産業省 電力・ガス取引監視等委員会「令和6年7月1日時点における最終保障供給契約件数を公表いたしました」
最終保障供給の仕組み
最終保障供給の仕組みは、通常の電気供給契約とは異なります。
通常の電気供給契約には、小売電気事業者と一般送配電事業者という2つの事業者が関わっています。
需要家は小売電気事業者と契約(小売供給契約)を結び、電気の供給を受ける対価として「電気料金」を支払います。一方、小売電気事業者は一般送配電事業者と契約(託送供給契約)を結び、電力を送るための送配電ネットワークを使用する対価として「託送料金」を支払います[2]。
それに対し、最終保障供給では、需要家が一般送配電事業者と直接契約(最終保障供給契約)を結び、電気の供給を受けます。
通常の電気供給契約の解除前に最終保障供給を受けることはできません。一般的には、契約している小売電気事業者から、一般送配電事業者に対し託送供給契約の解除申し込みののち、初めて最終保障供給の手続きが可能になります[2]。
最終保障供給の申し込みを検討している場合は、まずは契約していた小売電気事業者に対し、託送供給契約の解除手続きが済んでいるかを確認してください。
対象となるのは?
一般送配電事業者(東京電力パワーグリッド等)による最終保障供給の対象となるのは、高圧・特別高圧の電気の供給を受ける事業者です。主に一般家庭や商店向けの低圧電力に関しては、みなし小売電気事業者(東京電力エナジーパートナー等)に供給義務が課されています[7]。そのため、新電力をはじめとした小売電気事業者が突然倒産・事業撤退しても、全ての需要家が保護され、電力の安定供給が確保される仕組みになっています。
※ただし、沖縄エリアにおいては、沖縄電力の小売部門に低圧・高圧、同社の送配電部門に特別高圧の需要家への供給義務が課せられています[7]。
高圧・特別高圧の区分で最終保障供給を受けるためには、電力供給地点を管轄する一般送配電事業者10社のいずれかへ最終保障供給契約を申し込む必要があります[8]。
- 北海道電力ネットワーク株式会社
- 東北電力ネットワーク株式会社
- 東京電力パワーグリッド株式会社
- 中部電力パワーグリッド株式会社
- 北陸電力送配電株式会社
- 関西電力送配電株式会社
- 中国電力ネットワーク株式会社
- 四国電力送配電株式会社
- 九州電力送配電株式会社
- 沖縄電力株式会社
[7]経済産業省 電力・ガス取引監視等委員会「最終保障供給料金の在り方について」
[8]経済産業省 資源エネルギー庁「送配電事業者一覧(一般送配電事業者、送電事業者、特定送配電事業者)」
最終保障供給の料金
最終保障供給の料金は、通常の料金メニューと同様に、基本料金や電力量料金で構成されるのが一般的です。
2024年4月時点の東京電力パワーグリッドの最終保障電力Aというプランを例に挙げると、料金単価は以下のとおりです[9]。
料金プラン | 供給電圧 | 料金単価(税込) | |
最終保障電力A | 基本料金 (契約電力1kWにつき) | 6,000V | 2,268円 |
2万V | 2,124円 | ||
6万V | 2,124円 | ||
電力量料金 (使用電力量1kWhにつき) | 6,000V | 23円41銭 | |
2万V | 21円77銭 | ||
6万V | 21円77銭 |
[9]東京電力パワーグリッド株式会社「「電気最終保障供給約款」の見直しに関するお知らせ」
最終保障供給に関する注意点
最終保障供給契約を申し込む場合、あらかじめ知っておきたい点は3つあります。
- 通常の料金プランより高い
- 料金が市場連動し変動する要素を含んでいる
- 契約期間が1年以内となる
通常の料金プランより高い
最終保障供給は、一時的なセーフティーネットとして位置付けられているため、通常よりも電気料金が高く設定されています。
2022年の制度改正前までは、東京電力エナジーパートナー等大手電力小売会社の標準的な料金プランの1.2倍程度の水準に設定されていました[3]。その後、料金体系の見直しが随時行われ、従来の最終保障供給料金に加えて、さらに市場価格調整項を上乗せした金額を請求する一般送配電事業者が現れました。2023年3月の時点では、料金体系の見直しを行っていないエリアも存在しましたが(関西電力や九州電力など)、現在は沖縄電力を除く9社が市場価格調整項ありの料金プランを提供しています[5][10]。
具体的な値上げ内容については、後の項目で詳しく説明します。
[10]経済産業省 電力・ガス取引監視等委員会「最終保障供給について」
料金が市場連動し変動する要素を含んでいる
最終保障供給料金算出に市場連動要素が加わりました。今後、燃料価格の高騰などが原因で、卸電力市場の価格が上昇した場合、最終保障供給料金に上昇分が反映され実質値上げされる可能性があります[9]。
ただし、現在の制度には問題点があることが指摘されており、今後再び制度の見直しが行われる可能性もあります[10]。
契約期間が1年以内となる
最終保障供給契約はセーフティーネットの位置づけなので、何年にもわたって契約を継続することはできません。そのため、原則として契約期間が1年以内に制限される点にも注意しましょう。例えば、東京電力の場合、最終保障電力A、最終保障電力Bの2つの契約種別において、契約期間(契約使用期間)はいずれも1年以内となっています[11]。
[11]東京電力パワーグリッド株式会社「電気最終保障供給約款」
最終保障供給の値上げに要注意!
一般送配電事業者による最終保障供給料金は、随時見直され、近年では値上げが行われてきました。
2024年4月までの東京電力パワーグリッドの最終保障電力Aの供給電圧(6,000V)を例に挙げると、料金単価の推移は以下のとおりです[9][12]。
基本料金 (契約電力1kWにつき) | 電力量料金 (使用電力量1kWhにつき) | |
2022年4月1日から2023年3月31日までの料金単価(税込) | 2,057円 | 20円 04銭(夏季) 18円 67銭(その他季) |
2023年4月1日から2024年3月31 日までの料金単価 | 2,177 円24 銭 | 26 円34 銭(夏季) 24 円97 銭(その他季) |
2024年4月1日からの 料金単価 | 2,268 円 | 23 円41 銭 ※季節別の区分が廃止 |
[12]東京電力パワーグリッド株式会社「「最終保障供給約款」の見直し概要 別紙1」
値上げされる理由
最終保障供給料金が値上げされた理由は、新電力などの小売電気事業者の電気料金(自由料金)よりも一般送配電事業者の最終保障供給料金の方が安い事態が起きたからです。
小売電気事業者のうち、発電設備を持たない事業者は、卸電力市場を通じて電気を調達しています。2022年に高騰した卸電力市場の調達コストを料金に転嫁する為、値上げが行われた結果、一時的なセーフティーネットである最終保障供給料金と逆転現象が起きました[5]。
料金の算定式
しかし、料金体系の見直しによって、現在は逆転現象が起きにくくなっています。
具体的には、2022年9月以降、沖縄電力を除く一般送配電事業者各社が、最終保障供給料金の算定式に市場価格調整項という項目を追加しました。市場価格調整項とは、以下の計算式によって算定される項目です(例:東京電力パワーグリッド)[13]。
市場価格調整項=(平均市場価格-基準市場価格)×基準市場単価
つまり、算定期間における卸電力市場の平均価格から、電力会社ごとに定める基準市場価格を差し引き、さらに電力量1kWh当たりの単価を乗じたものが、市場価格調整項となります。
こうした市場価格調整項の仕組みによって、最終保障供給料金の電力量料金が卸電力市場と連動し、市場価格が反映されるようになりました。仮に卸電力市場の価格が上昇し、新電力の電気料金(自由料金)が値上げされても、最終保障供給料金も値上げされるので、最終保障供給料金の方が安い逆転現象は起きにくくなります。
[13]東京電力パワーグリッド株式会社「「最終保障供給約款」の見直し概要」
【まとめ】最終保障供給の仕組みや2022年9月の制度改正について知ろう
最終保障供給とは、どの小売電気事業者とも契約を結べなかった需要家を対象として、一般送配電事業者が代わりに電力供給を行うセーフティーネットです。
最終保障供給は、2022年9月の制度見直しによって、料金算出に市場連動要素が加わりました。卸電力市場における価格が高騰した場合、最終保障供給料金にも反映され実質的に値上げがあるので注意しましょう[5] 。