託送料金(レベニューキャップ制度)の仕組みやメリットを詳しく解説
電気の安定供給に欠かせない送配電ネットワークは、高度経済成長期に整備された送配電設備の老朽化や、再生可能エネルギーの導入拡大への対応など、さまざまな課題を抱えています。
そこで2023年度に導入されたのが、レベニューキャップ制度と呼ばれる新たな託送料金制度です。本記事では、託送料金(レベニューキャップ制度)の仕組みやメリットについて解説します。
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目次
託送料金(レベニューキャップ制度)とは?
2023年度から、レベニューキャップ制度に基づく新たな託送料金制度が始まりました[1]。ここでは託送料金の意味や、レベニューキャップ制度の仕組みについて解説します。
[1]電力・ガス取引監視等委員会「電力託送料金について~2024年4月からの変更点~」
託送料金の意味
託送料金とは、電気料金を構成する要素のうち、電気を安定して届けるための送配電ネットワークにかかる費用のことです[2]。
送配電ネットワークは、発電所で作った電気を変電所に送る送電線や、変電所から消費者(需要家)に電気を運ぶ配電線のことで、その総延長は地球約100周分に匹敵します[3]。生活や事業活動に欠かせない電力を届けるには、送配電ネットワークを日本全国に張り巡らせ、整備・維持するための設備投資が欠かせません。
その設備投資の費用を電気料金に加算し、需要家が負担する仕組みのことを託送料金制度と言います。託送料金は、電気料金の約30%を占めており、以下の要素で構成されます[2]。
託送料金の構成要素[4] | ・送配電部門の人件費 ・送配電部門の修繕費 ・送配電部門の減価償却費 ・送配電部門の固定資産税 ・電源開発促進税 ・賠償負担金 ・廃炉円滑化負担金 ・その他 |
従来の託送料金制度にはさまざまな問題点があることが指摘されており、2023年度からはレベニューキャップ制度と呼ばれる新たな託送料金制度が導入されました。
[2]電力・ガス取引監視等委員会「電気の託送料金とレベニューキャップ制度」
[3]経済産業省 資源エネルギー庁「知ってる?電気を届ける仕組みのこと」
[4]経済産業省 資源エネルギー庁「料金設定の仕組みとは?」
レベニューキャップ制度の仕組み
レベニューキャップ制度とは、“一般送配電事業者が、一定期間ごとに収入上限について承認を受け、その範囲で柔軟に料金(託送料金)を設定”する制度です[5]。レベニューキャップ制度の導入によって、発電所から電気を届ける一般送配電事業者は、国が定めた上限を超えない範囲で、託送料金を設定できるようになります。
[5]電力・ガス取引監視等委員会「2023年度からの新たな託送料金制度(レベニューキャップ制度)における調整力費用の算定方法等について」
レベニューキャップ制度の特徴は、一般送配電事業者が送配電ネットワークの効率化やコスト削減に取り組むほど、インセンティブを得られる仕組みになっているという点です。大まかな流れは以下の通りです[1][6]。
- 一般送配電事業者が5年間の事業計画を策定し、送配電ネットワークへの投資やメンテナンスに必要な費用を見積もる[2]
- 国が事業計画と費用の見積もりを審査し、その期間における託送料金の収入上限(レベニューキャップ)を決定する
- 一般送配電事業者は収入上限を超えない範囲で、その期間の託送料金を設定する
- 国の指定機関が必要に応じて期中に収入上限を超えていないか等の評価を行う
- 5年間の期間が終了すると、国が事業計画の達成状況を審査する
- 収入上限よりも実績費用が下回った場合は、そのコスト削減分が一般送配電事業者の利益となる
- 一般送配電事業者の効率化した成果を翌期の費用見積もりに反映することで系統利用者に還元
またレベニューキャップ制度では、一般送配電事業者がコスト削減によって得た利益が、電気を利用する需要家にも還元されます。託送料金の基準となる収入上限は、事業計画の達成状況に基づいて見直され、一般送配電事業者が行ったコスト削減分の50%が次の5年間に値下げされる仕組みになっているからです[6]。
このように託送料金(レベニューキャップ制度)は、一般送配電事業者の自主的な効率化を促すとともに、需要家の負担軽減も視野に入れた制度設計になっています。
託送料金(レベニューキャップ制度)が導入された背景
電力・ガス取引監視等委員会によると、新しい託送料金(レベニューキャップ制度)が登場した背景には、日本の送配電ネットワークが抱える3つの課題があります[6]。
更新投資 | 日本の送配電網は老朽化が著しく更新投資が待ったなし |
拡充投資 | 再エネの急激な増加に合わせた送電網の拡充が不可欠 |
災害対応 | 近年の自然災害の激甚化への備えが早急に必要 |
従来の託送料金(総括原価方式)では、こうした課題への対応が難しいことから、レベニューキャップ制度が導入されました。
更新投資
日本の送配電ネットワークの大部分は、高度経済成長期の1960~70年代に整備されたものです。多くの送配電設備が経年50年前後となり、老朽化が進んでいることから、計画的な更新投資が待ったなしの状況です[6]。
拡充投資
また日本では、CO2の排出量を実質的にゼロに減らす「脱炭素社会」の実現に向けて、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーが急速に普及しています。普及の足かせとならないよう、既存の送配電ネットワークを拡充し、新しい送配電設備を適時に作っていくための投資も必要です。
災害対応
近年は、毎年のように自然災害が起きており、全国各地で甚大な被害が発生しています。年々激しさを増す自然災害に備えるため、電柱の地中化や送配電ネットワーク設備の仕様統一、災害時の送配電事業者間の連携など、日本全国での災害対応が必要です。
総括原価方式の問題
こうした送配電ネットワークの課題に対応する上で、従来の託送料金(総括原価方式)には問題があります。
総括原価方式とは、総原価(電気を安定的に供給するために必要な費用)に利益を上乗せした額と、電気料金の収入が等しくなるように設定する方式です[4]。総括原価方式は、下記の問題点が指摘されています[6]。
- 競争原理が働きにくい
- 投資インセンティブの欠如
- 固定的な料金運用
- 投資計画の不透明性
- ステークホルダーの欠如
- 投資の後ろ倒しの可能性
送配電ネットワークの更新投資や拡充投資、災害対応を進めるには、「何を、どう維持するべきか」「何を、どう伸ばすべきか」の2点を念頭に、確実で無駄のない投資計画を立てることが大切です。
レベニューキャップ制度では、送配電ネットワークの効率化にインセンティブが働くため、一般送配電事業者が効率的で計画的な送配電ネットワークを形成することが期待できます[6]。
託送料金(レベニューキャップ制度)を導入するメリット
託送料金(レベニューキャップ制度)は、一般送配電事業者だけでなく、需要家にとってもさまざまなメリットのある制度です。
ここでは、託送料金(レベニューキャップ制度)の導入によって得られるメリットを3つ紹介します。
- 送配電設備の効率化や投資コストの削減を促せる
- 託送料金の負担軽減
- 送配電ネットワークの計画的な設備更新により、将来的にわたって電気の安定供給を受けられる
送配電設備の効率化や投資コストの削減を促せる
一般送配電事業者は送配電ネットワークのコスト削減のため、デジタル化の推進など、効率化に向けたさまざまな取り組みを行っています(以下一例)。
- 次世代スマートメーターの検討[7]
- ドローンやウェアラブルカメラの活用による業務の省力化・遠隔化[8]
- AIやビックデータを活用した設備不具合の予兆検知や劣化診断技術等の開発・導入[8]
[7]送配電網協議会 【知っトク!送配電】次世代スマートメーターの仕様検討
[8]送配電網協議会【知っトク!送配電】スマート保安推進に向けた取り組み
託送料金(レベニューキャップ制度)の審査において、トップランナー制度による評価が行われ、送配電事業者10社の効率性を可視化する統計手法が導入されたことも、各社がコスト削減に乗り出す一因となっています[7] 。
※トップランナー制度とは、“点数化された各社の効率性について、過去実績で効率性の劣る事業者に対して、効率性の良い事業者(=トップランナー)の水準まで効率化を促すことを可能とする仕組み”のこと
こうしたコスト削減に向けた取り組みは、需要家にとっても利点が大きいものです。業務が効率化されることで、コスト削減だけでなく利便性の向上も期待されています。
託送料金の負担軽減
レベニューキャップ制度には、一般送配電事業者が行ったコスト削減分の50%が翌期5年間の託送料金に反映され、値下げされる仕組みになっています[6]。
短期的には送配電ネットワークの投資コストの確保のため、託送料金の値上げにつながる可能性がありますが、中長期的には送配電事業の効率化が進むことにより、託送料金の負担軽減が見込まれます。
送配電ネットワークの計画的な更新投資により、将来的にわたって電気の安定供給を受けられる
レベニューキャップ制度では、一般送配電事業者が5年間の投資計画を作成し、老朽化した送配電設備の更新や自然災害に備えるためのレジリエンス(強靭性)強化に取り組みます。
需要家は、将来的にわたって、生活・事業インフラである電力の安定供給を受けられます。
【まとめ】託送料金(レベニューキャップ制度)の仕組みや企業にとってのメリットについて知ろう
託送料金とは、電気料金を構成する要素のうち、電気を安定して届けるための送配電ネットワークにかかる費用のことです。
送配電ネットワークとは、発電所で作った電気を変電所に送る送電線や、変電所から需要家に電気を運ぶ配電線のことです。
需要家は電気料金の約30%を占める託送料金を通じて、送配電ネットワークの整備・維持費用を負担しています。
レベニューキャップ制度とは、国が定めた収入上限(レベニューキャップ)の範囲内で、一般送配電事業者が柔軟に託送料金を決められる制度です。
一般送配電事業者が事業の効率化に取り組むほど、コスト削減分の50%が翌期5年間の託送料金の値下げにつながり、需要家にも還元される仕組みです。
また、送配電ネットワークの計画的な設備更新を促し、将来的にわたって電気の安定供給につながるメリットがあります。