容量市場とは?導入された背景や仕組みを詳しく紹介
2020年から、容量市場と呼ばれる新たな電力市場が導入されました[1]。容量市場は、実際に発電された電力量(kWh)を取引する卸電力取引市場(卸電力市場)と違い、将来発電可能な供給力(kW)を取引するための市場です[2]。
容量市場は、電力を長期的かつ安定的に供給するため、大きな役割を果たすことが期待されています。電力の供給を受ける需要家も、デマンドレスポンス(DR)などの取り組みを通じて、容量市場に参加することが可能です。
本記事では、容量市場の仕組みや導入された背景、需要家にとってのメリット・デメリットについて解説します。
[1]経済産業省 資源エネルギー庁「くわしく知りたい!4年後の未来の電力を取引する「容量市場」」
[2]電力広域的運営推進機関「容量市場かいせつスペシャルサイト」
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目次
容量市場とは?
容量市場とは、”電力をより長期的な視点で安定的に確保するという観点から、「4年後に供給が可能な状態にできる電源の供給力(kW)を募集して取引する」市場”です。2020年には、2024年度に供給が可能な電源を確保することを目的として、第1回目のオークションが行われました[3]。
なぜ容量市場を通じて、将来の供給力(kW)を取引しているのでしょうか。ここでは容量市場が導入された背景や、既存の卸電力市場との違いを紹介します。
[3]経済産業省 資源エネルギー庁「節電される電気を価値化!?ディマンド・リスポンスの取引」
容量市場が導入された背景
容量市場導入の背景にあるのは、電力売買の活発化と再生可能エネルギー(再エネ)の拡大です[2]。
電力の小売部門は2016年に全面自由化されました。新電力(新電力会社)と呼ばれる新規事業者の参入で競争が促進され、余剰電力の電力売買も活発化しました[4]。
一方、太陽光や風力などの再エネが拡大したことで、再エネが卸電力市場に投入される時間帯では市場価格が下落し、全電源の売電収入が減少する事象が起きています[2]。
また再エネの発電量は、季節や天候などの条件により変動するので、火力発電など出力をコントロールできる電源を活用し、調整することで電力の安定供給を維持してきました。例えば計画通りに再エネの発電ができず、電力の供給量が不足する場合は、火力発電の出力を増加させ、電力の需給バランスを調整しています。
ただ老朽化した火力発電所には、新しい発電所の建設や、設備の建て替え(リプレース)が必要です。しかし、上記のような売電収入の減少が続くと、発電所の建設や建て替えの投資を断念するケースも想定されます。このままでは、火力発電による調整可能な供給力が低下し、夏季や冬季の需要ピーク時に供給力が不足する恐れがあります。
このような経緯から、将来の電力供給力そのものを取引する容量市場が生まれました。
[4]経済産業省 資源エネルギー庁「電力の小売全面自由化って何?」
容量市場の仕組み
容量市場は、電力広域的運営推進機関(広域機関)が市場管理者となって発電事業者や小売電気事業者を取りまとめ、毎年開催されるオークションを通じて、落札される電源や取引価格(約定価格)が決まります[5]。
容量市場の仕組み | 役割 |
容量市場 (広域機関) | ・オークションを開催し、落札電源や約定価格を決定する ・実需給期間(オークションの4年後)に、小売電気事業者から容量拠出金を集め、落札電源を保有する発電事業者に対し、対価(容量確保契約金額)を支払う |
発電事業者 | ・オークションに応札し、落札した場合は必要な供給力を提供する |
小売電気事業者 | ・電気事業法および広域機関の定款に基づき、容量拠出金を広域機関に支払う |
容量市場では、まず広域機関が4年後に必要となる電気の最大量(最大需要)を試算し、その需要を満たすための電力供給力を算定します。その際に、気象や災害によるリスクも考慮しながら調達すべき目標容量を示します[1]。
次に、その調達量をまかなうため、“4年後に供給が可能な状態にできる電源”をオークション形式で募集します[1]。電源は価格が安い順に落札され、広域機関は約定した事業者と容量確保契約を締結します[5]。
卸電力市場との違い
容量市場は、既存の卸電力市場とは異なる仕組みを持つ電力市場です[6]。
電力市場 | 電源における価値 | 取引される商品 |
卸電力市場 (スポット市場、ベースロード市場など) | 電力量(kWh価値) | 実際に発電された電気 |
容量市場 | 供給力(kW価値) | 発電することができる能力 |
卸電力市場では、実際に発電された電気が取引の対象となりますが、容量市場は将来にわたって見込める供給力(kW)を取引する点が異なります。
[6]経済産業省 資源エネルギー庁「容量市場について」
容量市場のメリット
容量市場の参加には、多くの条件がありますが、発電事業者だけでなく、デマンドレスポンス(“賢く電力使用量を制御すること”)に取り組む事業者も参加できます[7]。実際に2020年の第1回オークションでは、デマンドレスポンスを含む発動指令電源の取引量は全体の2.4%(415万kW)でした[7]。
容量市場の存在によって、需要家は2つのメリットを得られます。
- 電力の安定供給につながる
- 再エネの導入促進
[7]経済産業省 資源エネルギー庁「ディマンド・リスポンスってなに?」
電力の安定供給につながる
1つ目のメリットは、発電事業者が発電設備の整備・維持に必要な費用を確保できるため、将来にわたって電力の安定供給につながるという点です。
これまで発電事業者は、発電設備の保全費用を価格変動する売電収入に頼ってきましたが、容量市場で落札されると容量確保契約金額という安定した収入源を得られます。発電事業者は計画的に発電設備の新設やリプレースを行うことが可能です。需要家にとっても、電力供給および電気料金の安定化につながるというメリットがあります。
再生可能エネルギーの導入促進
2つ目のメリットは、再エネの導入促進につながるという点です。
再エネの中でも、太陽光発電や風力発電には出力が不安定という問題点があります。再エネの導入をさらに進めるには、必要なときに発電し、電力の需給バランスを調整できる電源が必要です。
容量市場を通じて、”必要なときに発電することができる能力”を計画的に整備することで、再エネを支え、再エネの主力電源化につながります[1][8]。
[8]経済産業省 資源エネルギー庁「再生可能エネルギー拡大に欠かせないのは「火力発電」!?」
容量市場のデメリット
容量市場のデメリットは、小売電気事業者の経済的な負担が増加し、電気料金の値上げにつながる可能性があるという点です。その要因とされるのが、小売電気事業者が負担する「容量拠出金」です。
容量拠出金とは、前述の「容量市場の仕組み」でも触れましたが、小売電気事業者が電気事業法および広域機関の定款に基づき、広域機関に支払うものです。広域機関(容量市場)は、容量拠出金を集め、落札電源を保有する発電事業者に対し、対価(容量確保契約金額)を支払います[9]。
2024年から小売電気事業者の容量拠出金の支払い義務が発生しています。すでに容量拠出金を「制度負担金」として電気料金に反映させ、1kWhあたり数円程度の値上げを行った小売電気事業者も見られます[10]。
契約する電力会社のホームページなどを参考にして、最新の値上げ状況を確認しましょう。
[9]電力広域的運営推進機関「容量拠出金を知ろう!」
[10]新電力ネット「4月からの容量拠出金による影響は?容量市場の仕組みと創設背景について」
【まとめ】容量市場の仕組みや需要家にとってのメリット・デメリットについて知ろう
容量市場は、2020年から始まった電力市場で、将来発電可能な供給力(kW)を取引するための市場です。広域機関が市場管理者となり、落札電源や取引価格(約定価格)は毎年オークション形式で決まります。
発電事業者は、オークションの4年後に確実な収入を見込めるため、計画的な設備投資が可能です。また、中長期的に活用可能な調整電源を確保することで、出力が不安定な太陽光発電や風力発電を補い、再エネの導入促進につながるというメリットもあります。一方で、容量拠出金が電気料金に反映され、需要家にとっては負担額の増加となるケースもあります。
容量市場の仕組みや、メリット・デメリットについて知っておきましょう。