温対法とは?省エネ法との違いや改正のポイントを詳しく解説
2021年3月1日に「地球温暖化対策の推進に関する法律の一部を改正する法律案」が閣議決定され、温対法が改正されました。[1]
温対法とは、1997年に採択された京都議定書[2]に基づく法律で、年間のエネルギー使用量が一定以上の事業者を対象としています。2021年の法改正によって、温対法の何が変わったのでしょうか。
本記事では、温対法の概要や国の温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度との関連性、温対法と混同されやすい省エネ法との違い、2021年の改正ポイントについて解説します。
[1]環境省「地球温暖化対策推進法と地球温暖化対策計画」
[2]外務省「気候変動に関する国際枠組み」
>> 【法人のお客様向け】再生可能エネルギー由来の電力を組み合わせた環境配慮型電力プラン
目次
温対法とは?
温対法(地球温暖化対策の推進に関する法律)とは、地球温暖化の一因となる温室効果ガスの排出削減を目的として、1998年に制定された法律です。[3]
前年の1997年には、京都で気候変動枠組条約第3回締約国会議(京都会議)が開催され、温室効果ガス排出量の削減目標などを定めた京都議定書が採択されました。温対法はこの京都議定書を背景として、地球温暖化対策を官民一体として推進するため、国・地方公共団体・事業者・国民それぞれの責務を明らかにしています。
事業者の責務としては、温対法第5条において「温室効果ガスの排出の量の削減等のための措置を講ずるように努めるとともに、国及び地方公共団体が実施する温室効果ガスの排出の量の削減等のための施策に協力しなければならない」と定められています。[3]
2006年4月1日には、温対法に基づいて温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度が創設されました。この算定・報告・公表制度は、「温室効果ガスを多量に排出する者(特定排出者)に、自らの温室効果ガスの排出量を算定し、国に報告する」ための制度です。[4]
事業者レベルでは、温対法というとこの算定・報告・公表制度のことを指す場合があります。算定・報告・公表制度の対象となる事業者は、温対法に基づいて温室効果ガス排出量の算定・報告の義務を果たしましょう。
[3]e-Gov法令検索「地球温暖化対策の推進に関する法律」
[4]環境省「制度概要」
3つのポイントで温対法と省エネ法の違いを紹介
温対法と同様に、環境対策において重要な役割を果たす法律が省エネ法(エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律)です。
省エネ法とは、経済産業省資源エネルギー庁によると、一定規模以上の(原油換算で1,500kl/年以上のエネルギーを使用する)事業者に、エネルギーの使用状況等についての定期的な報告を義務付けて、省エネや非化石転換等に関する取組の見直しや計画の策定等を行ってもらうための法律を指します。[5]
省エネ法では、対象となる事業者が自らの事業活動におけるエネルギー使用状況を把握し、国に報告しなければなりません。この報告義務の一部に温室効果ガス排出量についての報告が含まれることから、温対法と省エネ法を混同する例がしばしば見られます。
ここでは、温対法と省エネ法の違いについて、目的・対象者・罰則の3つの観点から解説します。
目的
温対法の目的は、「地球温暖化対策の推進を図り、もって現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与するとともに人類の福祉に貢献すること(第1条)」です。
さまざまな環境対策の中でも、地球温暖化対策に主眼を置いた内容となっています。
一方、省エネ法の目的は、「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換に関する所要の措置、電気の需要の最適化に関する所要の措置その他エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等を総合的に進めるために必要な措置等を講ずること(第1条)」です。[6]
化石燃料に由来する化石エネルギーから、再生可能エネルギーをはじめとした非化石エネルギーへの転換のため、省エネやエネルギー使用の合理化を推進する内容となっています。
[6]e-Gov法令検索「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律」
対象者
温対法や省エネ法では、特定の事業者に対し、温室効果ガス排出量を算定・報告することを義務付けています。しかし、それぞれ対象となる事業者が異なります。
温対法(温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度)における対象者は以下のとおりです。[4]
温室効果ガスの種類 | 対象事業者 | |
エネルギー起源の二酸化炭素 | 特定事業所排出者 | ● 全ての事業所のエネルギー使用量合計が原油換算で1,500kl/年以上の事業者 |
特定輸送排出者 | ● 省エネ法による特定貨物輸送事業者 ● 省エネ法による特定旅客輸送事業者 ● 省エネ法による特定航空輸送事業者 ● 省エネ法による特定荷主など | |
非エネルギー起源の二酸化炭素 | 特定事業所排出者 | ● 以下の条件を満たす事業者 ○ 温室効果ガスの種類ごとに定める当該温室効果ガスの排出を伴う活動(排出活動)が行われ、かつ、当該排出活動に伴う排出量の合計量が当該温室効果ガスの種類ごとにCO2換算で3,000トン以上 ○ 事業者全体で常時使用する従業員の数が21人以上 |
一方、省エネ法は温対法における対象者に加えて、工場・事業場の設置者や、貨物/旅客輸送事業者、荷主に対しても、エネルギー使用状況を報告する努力義務が課されます。温対法よりも対象となる事業者の範囲が広い点に注意しましょう。[5]
罰則
温対法や省エネ法の罰則は、それぞれ以下の表のとおりです。
罰則 | |
温対法 | ● 20万円以下の過料(報告義務違反や虚偽報告など) |
省エネ法 | ● 50万円以下の罰金(報告義務違反や虚偽報告など) ● 100万円以下の罰金(エネルギー管理者やエネルギー管理員の未選任など) |
省エネ法では、エネルギー使用状況の報告義務の他、事業者の区分に応じて、エネルギー管理者やエネルギー管理員を選任する義務を定めています。もし選任しなかった場合、100万円以下の罰金が科される可能性があります。
知っておきたい温対法の改正ポイント
温対法は1998年に制定されてから、合計7回の改正が行われました。[7]
その中でも、2021年の温対法改正は、2050年カーボンニュートラルの理念や、企業の排出量情報のデジタル化に向けた取り組みなど、事業者にとって重要な内容を含んでいます。
ここでは、知っておきたい温対法の改正ポイントを3つ紹介します。
[7]環境省 脱炭素ポータル「地球温暖化対策推進法について」
基本理念
2021年の温対法改正では、2050年カーボンニュートラル宣言に基づく基本理念が付け加えられました。2050年カーボンニュートラル宣言とは、2020年10月の臨時国会で行われた「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」という宣言です。[8]
今後はこの2050年カーボンニュートラル宣言を一つの指針として、中長期的な視点から、さまざまな地球温暖化対策が行われていくことになります。
[8]経済産業省 資源エネルギー庁「「カーボンニュートラル」って何ですか?(前編)~いつ、誰が実現するの?」
再エネ導入促進
また地方創生につながる再エネ導入を促進する規定が盛り込まれました。法改正以降は、地方公共団体の認定を受けた再エネ活用事業を対象として、必要な行政手続きのワンストップ化(自然公園法・温泉法・廃棄物処理法・農地法・森林法・河川法など、関連する法令の手続きを一つにまとめられる)などの優遇が受けられます。[9]
デジタル化
法改正によって、温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度の仕組みが変わります。
温室効果ガス排出量の報告は、原則として電子システムの利用が必要です。また企業の排出量情報がオープンデータ化され、開示請求なしにデータが公表されるようになりました。
【まとめ】温対法と省エネ法の違いや2021年の改正ポイントを確認しよう
1998年に制定された温対法は、温室効果ガスの排出削減に向けて、国・地方公共団体・事業者・国民それぞれの責務を定めた法律です。2006年4月1日には、温対法に基づいて温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度が創設され、対象となる事業者は温室効果ガス排出量を算定し、国に報告することが義務付けられました。この点が、エネルギー使用状況の報告を義務付ける省エネ法と混同されやすいため、温対法と省エネ法の違いを把握しておきましょう。
温対法は2021年に改正が行われており、2050年カーボンニュートラルを踏まえた基本理念の新設や、電子システムによる排出量報告の原則化などの項目が盛り込まれました。特に算定・報告・公表制度の対象事業者にとっては、大きな影響を受ける改正内容となっているため、改正のポイントをしっかりと確認しましょう。