世界規模で異常気象が発生する中で、気候変動問題への対応は今や人類共通の課題の一つとなっています。2022年2月には、ロシアによるウクライナ侵略が発生し、石油や石炭、天然ガスなどのエネルギー価格が世界的に高騰しました[1]。
こうした緊迫した事態に直面したことから、産業革命以来の化石エネルギーに依存した産業構造・社会構造を変革(トランスフォーメーション)し、クリーンなエネルギーの活用を進めていくGX(グリーントランスフォーメーション)と呼ばれる動きが国際社会で広がっています。
本記事では、GXの意味や注目を集める背景、国内外の企業の取り組み事例について紹介します。
[1]経済産業省「GX 実現に向けた基本方針~今後10年を見据えたロードマップ~」
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目次
GXとは?
GX(グリーントランスフォーメーション)とは、“化石燃料をできるだけ使わず、クリーンなエネルギーを活用していくための変革やその実現に向けた活動”を意味する言葉です[2]。
現在の産業構造・社会構造は、石油や石炭、天然ガスなどの化石エネルギーに依存しています。化石エネルギーに依存する経済社会から、太陽光や風力、バイオマスなどのクリーンなエネルギーを中心とした経済社会への変革を目指す取り組みがGXです。
またGXには、脱炭素関連技術への投資や再生可能エネルギーの安定供給の実現を通じて、日本経済を再び成長軌道へと戻す起爆剤としての役割も期待されています。
[2]経済産業省 METI Journal ONLINE「知っておきたい経済の基礎知識~GXって何?」
GXとカーボンニュートラルの違い
カーボンニュートラルとは、“二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの「排出量」から、植林、森林管理などによる「吸収量」を差し引いて、合計を実質的にゼロにする”取り組みです。日本は2020年10月に、2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言しました[3]。
カーボンニュートラルは、GXの柱となる取り組みの一つです。カーボンニュートラルに関する民間投資を活発化させるなど、クリーンエネルギーへの転換に向けた動きを経済成長と連動させ、産業構造・社会構造を変革することがGXの狙いとなっています。
GXが注目されている背景
GXが注目されている背景には、令和4年6月に岸田内閣が発表した「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」と、深刻化する環境問題という2つの要因が関わっています[4]。
[4]内閣官房「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画~人・技術・スタートアップへの投資の実現~」
政府による計画的な重点投資
岸田内閣は「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」において、新しい資本主義を実現し、日本経済を成長軌道に乗せていくため、重点投資分野の1つにGXを選定しました[4]。
GXに関する分野では、2050年にカーボンニュートラルの達成と、日本の産業競争力強化・経済成長を同時に実現するためには、今後10年間で150兆円を超える官民の投資が必要であるとされています[5]。150兆円超の財源は、GX経済移行債を呼び水として、民間投資を呼び込む形で賄うことが検討されています。
また、脱炭素の実現に向けて挑戦する企業が協働し、新たなビジネス機会を形作るGXリーグも、2023年4月から本格的な活動がスタートしました。GXリーグには、日本のCO2排出量の4割以上を占める企業(679社)が賛同を表明しており、GXの実現に向けてリーダーシップを発揮していくことが期待されています[6]。
[5]財務省「GX経済移行債特集」
[6]経済産業省「GXリーグ活動概要~What is the GX League~」
環境問題の深刻化
GXが注目を集めるもう1つの理由は、地球温暖化をはじめとした環境問題が深刻化しているからです。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)がまとめた「第5次評価報告書(2013~2014年)」によると、世界の平均気温は1880年から2012年にかけて、約0.85℃も上昇しています。その原因の一つと考えられているのが、石油や石炭などの化石燃料から排出される温室効果ガスです。特に大気中のCO2濃度は、産業革命以前から約40%も増加しており、その様子は日本の温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」でも観測されています[7]。
日本は2050年までにカーボンニュートラルの達成を目指すと宣言するなど、気候変動問題への対応に取り組んできました。しかし、2050年までに温室効果ガスの排出を実質的にゼロにするには、一部の国や企業だけでなく、あらゆる主体が脱炭素を目標に掲げ、社会の仕組みそのものを変える必要があります。
そのために必要とされる取り組みが、気候変動問題への対応と持続的な経済成長を両立するGXです。
GXに取り組むメリット
GXの実現に向けた取り組みは、企業にとってもメリットがあります。環境に配慮した活動を消費者にPRすることで、企業イメージの向上につながるだけでなく、節電や省エネの推進によってコスト削減も可能です。
ここでは、企業がGXに取り組むメリットを2つ紹介します。
- 企業価値の向上につながる
- コストを削減できる
企業価値の向上につながる
1つ目のメリットは、企業価値やブランドイメージの向上につながるという点です。
近年のエネルギー価格の高騰に対する危機感から、環境問題に関心を持つ消費者が増えています。自社の商品やサービスを通じて、環境問題への取り組みを消費者にアピールすることで、売上アップや集客増などの経済効果が期待できます。
コストを削減できる
2つ目のメリットは、事業コストを削減できるという点です。
GXに対する企業の取り組みの1つが、節電や省エネルギーの徹底です。クリーンなエネルギーへの転換だけでなく、そもそも化石エネルギーの消費量を減らすことが、GXの実現において大切です。節電や省エネルギーの徹底を行うと、GXの実現だけでなく電気代の削減が可能です。また将来的にエネルギー価格が大幅に上昇する事態が起きても、損失を最小限に抑えて事業活動を継続できます。
GXの取り組み事例
ここでは、GXに関する国内外の先行事例として、AmazonやGoogle、トヨタ自動車の取り組みを紹介します。
Amazon
Amazonは、2019年9月にThe Climate Pledge(気候変動対策に関する誓約)を発表し、2050年よりも10年早い2040年までにカーボンニュートラルを達成することを宣言しました。
また、Global Optimismと共同でClimate Pledge Fund(気候変動対策に関する基金)を設立し、20億米ドルを投資し、気候変動問題に取り組む企業への資金援助も行っています[8]。
Googleは、2007年に初めてカーボンニュートラルを達成し、2017年からは世界的な年間消費電力に相当する太陽光エネルギーと風力エネルギーを購入してきました。また、2030年までに地域を問わず、24時間365日カーボンフリーなエネルギーで事業を運営するという目標を設定しています[9]。
[9]Google「最新データで見るクラウドのカーボンフリー達成度」
トヨタ自動車
トヨタ自動車は、GXに積極的に取り組む日本企業の一つです。
トヨタ自動車が2015年に発表した「トヨタ環境チャレンジ2050」では、新車のCO2排出ゼロ、ライフサイクル全体でのCO2排出ゼロ、世界中の工場でのCO2排出ゼロなどを目標に掲げ、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて独自の取り組みを行っています[10]。
【まとめ】GXの意味や実際の取り組み事例について知ろう
GX(グリーントランスフォーメーション)とは、化石燃料に由来したエネルギーへの依存を止め、太陽光や風力などのクリーンなエネルギーへの移行を目指す取り組みです。政府による計画的な重点投資や世界規模で発生する異常気象から、GXに注目が集まっています。
GXは単なる環境問題の解決ではなく、化石エネルギーに依存しない産業構造・社会構造の実現を通じて、新たなビジネス機会を生み出そうとする取り組みでもあります。企業はGXに向けた取り組みによって、企業価値の向上や事業コストの削減といったメリットを得ることが可能です。