【法人向け】FIP制度とは?FITとの違いやメリット・デメリットを徹底紹介
2020年6月に「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(通称:再エネ特措法)」が改正され、その後継である「再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法」において、2022年4月からFIP制度がスタートしました[1]。FIP制度は、認定を取得した再生可能エネルギー(再エネ)発電事業者が卸電力市場などで電気を売った際に、売電価格に一定のプレミアム(補助額)が上乗せされて交付される制度です。
再エネ特措法について詳しく知りたい方は、【再エネ特措法とは?2024年の改正について詳しく解説】をご覧ください。
FIP制度は、再エネによって発電された電気の収入を市場価格と連動させることで既存のFIT制度(固定価格買取制度)の問題点を解消するとともに、将来、他電源と共通の環境下で価格競争しうる再エネ主電源化の段階的措置に位置付けられています。
本記事では、FIP制度のメリット・デメリットや、従来からあるFIT制度との違いを法人向けにわかりやすく解説します。
[1]経済産業省 資源エネルギー庁「「法制度」の観点から考える、電力のレジリエンス ⑤再エネの利用促進にむけた新たな制度とは?」
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目次
FIP制度とは?
FIP制度とは、フィードインプレミアム(Feed-in Premium)の略称で、認定を取得した再エネ発電事業者が卸市場などで売電したとき、その売電価格に対して一定のプレミアム(補助額)を上乗せして交付する制度です[1]。
資源エネルギー庁は、“FIP制度は、再エネの⾃⽴化へのステップとして、電⼒市場への統合を促しながら、投資インセンティブが確保されるように⽀援する制度。FIP制度が、FIT制度から他電源と共通の環境下で競争する⾃⽴化までの、途中経過に位置付けられるもの”としています[2]。
[2]経済産業省 資源エネルギー庁「FIP制度について」
プレミアム(補助額)の算定方法
FIP制度の認定を取得した事業者は、再エネによって発電した電気を、卸電力市場や相対取引により自ら販売します。その際に、あらかじめ決められた基準価格(FIP価格)から、参照価格(市場取引により期待される収入)を差し引いた金額をプレミアム単価とし、再エネ電気供給量を乗じた金額がプレミアム※として交付されます。[3]
プレミアム単価=基準価格(FIP価格)-参照価格(市場取引により期待される収入)
※プレミアム単価は、参照価格に基づいて1カ月ごとに更新され、電力の需給バランスなどにより出力制御が発生する時間帯は交付されません[3]。
参照:経済産業省 資源エネルギー庁「FIT・FIP制度ガイドブック2023年度」
出力制御とは、電気が需要以上に発電されて余った時に発生するものです。電気の安定供給には需要と供給を一致させる必要があり、”需要が少ない時期などには、火力発電の出力の抑制や地域間連系線の活用等により需給バランスを調整した上で、それでもなお電気が余るおそれがある場合に再生可能エネルギーの出力制御”がおこなわれています。[4]
基準価格とは、FIT制度における調達価格と同様に、“再生可能エネルギー電気の供給が効率的に実施される場合に通常要すると認められる費用等を基礎とし、価格目標その他の事情を勘案して定めるもの”です[2]。
一方、参照価格とは、卸電力市場などでの市場取引から期待される収入のことです。参照価格は、卸電力市場や非化石価値取引市場の価格と連動し、毎月機械的に決定されます。ただし、当面の間は経過措置として「バランシングコスト※」が参照価格算定に考慮され、実質的にプレミアム単価に上乗せされます[5]。
※バランシングコストとは、再エネで発電する電気の計画値(見込み)と実績値(実際の発電量)を一致させ、安定供給を確保するためのコストを意味します[2]。
このようにFIP制度では、卸電力市場などでの売電収入に加えて、基準価格から参照価格を除いたプレミアム(補助額)を受け取ることが可能です。FIP制度によって再エネ発電事業者が柔軟に電気の売り先を決められるとともに、再エネ投資のインセンティブとして更なる再エネ拡大が期待されています。
[3]経済産業省資源エネルギー庁「FIT・FIP制度ガイドブック 2024」
[4]経済産業省資源エネルギー庁「出力制御について」
[5]経済産業省 資源エネルギー庁「再エネを日本の主力エネルギーに!「FIP制度」が2022年4月スタート」
FIP制度とFIT制度の違い
FIP制度は、既存のFIT制度に加えて、2022年4月からスタートしました[5]。FIT制度とは、固定価格買取制度とも呼ばれ、“再生可能エネルギーで発電した電気を、電力会社が一定価格で一定期間買い取ることを国が約束する制度”です[3]。
ここでは、FIP制度とFIT制度の違いについて、買取価格・インバランス・非化石価値の3つの観点から解説します。
FIP制度(2022年4月~) | FIT制度(2012年7月~) | |
買取価格 | 電力市場と連動し、その時々の需給状況によって変動する | 一定価格 |
インバランス | インバランス料金の免除特例なし (経過措置として、手当てがプレミアムに含まれる) | インバランス料金の免除特例あり |
非化石価値 | 発電事業者に帰属するため、非化石価値取引市場などで取引可能 | 国に帰属するため、発電事業者は取引不可 |
買取価格の違い
1つ目の違いは、買取価格の決まり方です。
FIT制度では、経済産業大臣が関係省庁や調達価格等算定委員会の意見を参考にして、買取価格を年度開始前までに(例年3月末)告示します[6]。
一方、FIP制度における買取価格は電力市場と連動しており、その時々の電力需給状況によって変動します。
[6]経済産業省 資源エネルギー庁「よくある質問(Q1-6)」
インバランスの違い
2つ目の違いは、インバランス時の免除特例の有無です。
インバランスとは、発電量の計画値と実績値の差のことです。インバランスが発生した場合、発電事業者はペナルティとしてインバランス料金を一般送配電事業者に支払わなければなりません。
FIT制度には、インバランス特例があり、インバランスが発生しても料金の支払いが免除されていました。しかし、FIP制度にはインバランス特例が適用されません。そのため、計画値と実績値の差をできるだけ減らす「バランシング」を実施する必要があります[5]。
前述のとおり、FIP制度におけるプレミアムには、バランシングをするためのコストに対する手当ての意味合いもあります。[7]
[7]再生可能エネルギーの長期安定的な大量導入と事業継続に向けて(FIP制度関係)
非化石価値の違い
3つ目の違いは、非化石価値が誰に帰属するのか、という点です。 非化石価値とは、太陽光や風力、水力、地熱、バイオマスなど、化石燃料以外のエネルギーで発電された電力が持つ環境価値の一種です。CO2を排出せず発電された再エネ電力は需要があり、再エネ価値取引市場や高度化法義務達成市場などの非化石価値取引市場で電力と切り離して環境価値だけを非化石証書を通して取引することが可能です。
FIT制度の場合、非化石価値を発電事業者が取引することはできません。なぜなら、FIT制度の買取コストは需要家からの再エネ賦課金によってまかなわれており、その環境価値はすべての需要家に配分されるしくみとなっているためです。
FIP制度では、非化石価値が発電事業者に帰属するため、2022年度以降に営業運転開始となったFIP電源は非化石価値を証書化して需要家との直接取引が可能です。[8]
FIP制度が導入された背景
FIP制度が導入された理由は、FIT制度からさらに一歩進み、「再エネの⾃⽴化」を進めるためです[5]。
FIT制度は再エネの普及に大きく貢献してきましたが、どの時間帯に売電しても固定価格で買い取られるため、以下のような課題もありました[9]。
- 将来、再エネを電力市場へ統合するため、市場価格を意識した行動変容を発電事業者へ促す必要があった
- 需給バランスが崩れた際に他電源による調整が必要で、そのコストに対する国民負担(再エネ賦課金等)を抑制する必要があった
FIT制度では、再エネの導入を促進するため、国が決める固定価格で電気は買い取られてきました。買取価格は毎年度見直しが行われるものの、市場原理が働く卸電力市場とは完全に切り離された制度です。
今後、再エネを主力電源としていくには、火力や原子力などの既存の電源と同じように、卸電力市場と結びついた仕組みが必要になります。そのための段階的な措置として、市場価格を意識した行動変容を発電事業者へ促すという狙いから、FIP制度が導入されました。
また再エネを卸電力市場と結びつけることで、発電事業者は市場価格を判断材料として、発電計画を作成し、インバランスが発生しないよう計画に合わせて発電・売電することで、他電源を用いた調整コストが抑制され、国民負担の軽減につながります。
このような利点から、2024年度以降はFIP制度の拡充がさらに進められる予定です。特に太陽光・風力では、一定規模以上の新規認定はFIP制度のみ認められます[3]。
※1 事業用太陽光は、一定の条件を満たす場合には50kW未満であってもFIP制度が認められる。
※2 リプレースは入札対象外。特に1,000kW未満は、FIT/FIPが選択可能。
※3 浮体式洋上風力については、FIT/FIPが選択可能。
※4 出力50kW未満はFIP対象外。
[3]経済産業省資源エネルギー庁「FIT・FIP制度ガイドブック 2024」
ただし、地熱・中小水力・バイオマスなど、他の発電方法では引き続きFIT制度の新規認定が認められます(※規模等の一定条件を満たす必要あり)。またすでにFIT認定を受けていても、一定規模以上の事業であれば、事業者の希望によりFIP制度に移行することが可能です[3]。
※5 地熱・中小水力発電のリプレースは新設と同様の取り扱い。
※6 バイオマス発電(液体燃料を除く)のうち、廃棄物の焼却施設に設置されるものについては、50kW以上2,000kW未満の範囲においてFIT(地域活用要件あり)かFIP(入札対象外)を選択可能。
※ 沖縄地域・離島等供給エリアは地域活用要件なしでFITを選択可能。
[3]経済産業省資源エネルギー庁「FIT・FIP制度ガイドブック 2024」
[9]経済産業省 資源エネルギー庁「FIP制度について 2022年6月24日」
FIP制度を採用するメリット
FIP制度が導入された結果、企業は以下の3つのメリットを得られるようになりました[9]。
- 再エネ発電事業者は収入拡大の余地が生まれる
- 電力システムのコスト削減
- 再エネと関連市場の拡大
再エネ発電事業者は収入拡大の余地が生まれる
1つ目のメリットは、FIP制度の認証を取得した再エネ発電事業者にとっては収入拡大の余地が生まれた点です。
卸電力市場の価格は、季節や時間帯によって変動します。発電事業者は、電力需要が高く、市場価格が高いタイミングを狙って売電することで、より多くの収入を得られます。
FIP制度では、再エネ電力の売電収入が市場価格と連動するため、発電事業者は需給バランスを意識して、発電や売電を行うことで収入を拡大できる余地が生まれました。
電力システムのコスト削減
2つ目のメリットは、電力システムのコスト削減により、国民負担の抑制につながるという点です。
FIP制度では、電力の需要が高く市場価格が高い季節や時間帯に、発電事業者が供給量を増やすインセンティブが設けられていると説明しました。
こうしたインセンティブが働くと、電力需要が急騰した際に、他電源を用いた調整が必要となるケースが減少します。これまで発生していた電力システムの調整コストが削減され、再エネ賦課金などの国民負担の抑制につながることが期待されています。
再エネと関連市場の拡大
3つ目のメリットは、再エネおよび関連市場の拡大です。
上記に述べた再エネ発電事業者の売電収入の増加や資金の再投資により、再エネの拡大が促進され、更なるCO2削減につながります。
また、需要家にとっては、アグリゲーターや蓄電池等の関連市場が拡大することで、多様な商品やサービス・価格帯から選択ができる可能性があります。
FIP制度を利用するデメリット
一方、FIP制度には以下のようなデメリットもあります。
- 売電収入の不確実性が高い
- 発電事業者に設備投資や調整能力が求められる
売電収入の不確実性が高い
1つ目のデメリットは、発電事業者が得る売電収入について、利益予想が困難で不確実性が高いという点です。
FIT制度では、国が公表する価格表に基づき、10年~20年の期間に渡って、固定価格で再エネの買い取りが行われます[10]。そのため、発電事業者は中長期的な収益予測が可能でした。
しかし、FIP制度では、その時々の市場価格に応じて収入が変動するため、将来の見通しを立てることが難しくなります。
FIT制度よりも収入の不確実性が高いという点に注意しましょう。
[10]経済産業省 資源エネルギー庁「買取価格・期間等(2024年度以降)」
発電事業者に設備投資や調整能力が求められる
2つ目のデメリットは、FIP制度は発電事業者に設備投資や調整能力が求められるという点です。
前述のとおり、卸電力市場における価格は、季節や時間帯ごとの電力需要によって変動します。発電事業者が安定して収益を得るには、その時々の需給バランスを予測し再エネを発電・売電する調整能力を高める必要があります。
しかし、気象条件に左右されやすい再エネは、発電量を正確に予測することが難しいのが特徴です。加えて、プレミアムは、出力制御が発生する時間帯は交付されない為、FIP制度を通じて安定的な収益を得るには、買取価格が低い時に発電した電気を蓄電池に貯めておき、買取価格が高い時に売電、発電量予測システムを導入するなど発電事業者側の設備投資や工夫が求められます。
【まとめ】2022年から始まったFIP制度のメリット・デメリットについて知ろう
FIP制度とは、認定を取得した再エネ発電事業者が卸電力市場などで売電した際に、一定のプレミアム(補助額)が上乗せされて交付される制度です。売電による収益が市場価格と連動しているため、その時々の需給バランスを意識した調整能力が求められます。
FIP制度で安定して収益を得るためには、蓄電池などを活用した調整が重要です。FIP制度のメリット・デメリットや、従来のFIT制度との違いを把握しておきましょう。