GHGプロトコル:最新改訂の背景と企業の脱炭素戦略への対応策日
温室効果ガス(GHG)の算定・報告における国際基準として、GHGプロトコルは企業、政府、金融機関など多くのステークホルダーに支持され、脱炭素社会の実現に向けた基盤として大きな役割を果たしています。近年、社会情勢や技術の進展、さらには国際的な環境目標の変化を背景に、GHGプロトコル自体も改訂の動きを見せています。
本稿では、GHGプロトコルの歴史や改訂背景、主要な論点、さらに国内制度(SHK制度など)との違いや連携の可能性について、各Scope(排出源区分)の評価方法やカーボン・クレジットの取扱いといった具体的側面を整理し、企業が実務にどう取り入れるべきかを分かりやすく解説していきます。
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目次
GHGプロトコルとは?

基本概念と歴史的背景
GHGプロトコルは、2001年に「Corporate Standard」をはじめとして、2004年の改訂版(Revised Edition)、2011年のScope 3 Standardの公表、さらに2015年のScope 2 Guidance(ロケーション基準/マーケット基準等の考え方)などを通じて、企業の温室効果ガス排出量の算定・報告の国際基準として発展してきました。これにより、企業は自社の温室効果ガス排出実態を数値的に把握し、削減努力の成果を外部に開示することが可能となりました。
また、パブリックおよび民間セクターにおいて、このプロトコルを参照することが国際的な信頼性や透明性を担保する基準とされています。たとえば、CDP(Carbon Disclosure Project)やRE100、SBTiなどの環境関連イニシアチブにおいても、GHGプロトコルの枠組みに基づいた算定が求められています。
▶SBTiが定めた基準に基づく目標であるSBTについては以下の記事で詳しく解説しています。
国際的なガイドラインとしての位置付け
GHGプロトコルは、企業の内部統制および外部コミュニケーションの両面で重要な役割を担っています。国際的な取引や投資判断において、企業がどのような温室効果ガス排出削減に向けた取り組みを行っているかを示す尺度となり、多くの国際基準(例えばISO 14064-1等)と考え方が近く、互いに参照される形で実務に使われています。このように、GHGプロトコルはグローバルスタンダードとして、その適用範囲は日々拡大しているのが現状です。
※参考:環境省 温室効果ガス排出量の算定と検証について(ISO14064, 14065関連)(p.13~)
GHGプロトコル改訂の背景と主要論点

改訂の必要性とその動機
GHGプロトコルの主要な基準やガイダンスは、公開から10年以上が経過していることもあり、社会情勢の変化、技術革新、そして国際的な環境目標(パリ協定など)を背景に、改訂が求められる状況にあります。近年の市場環境やデジタル変革の波、さらに企業の脱炭素目標の高度化により、既存の基準では対応しきれない部分が浮き彫りになっています。
そのため、GHGプロトコル改訂作業では、各Scopeの報告体系の見直しや、新たな評価方法の導入が検討(例:Scope 2の扱い、データ品質、サプライチェーン算定の実務課題等)されるとともに、企業の実情に即した柔軟な対応が模索されています。
Scope 1・Scope 2・Scope 3の論点
温室効果ガス排出量の算定は、企業の直接排出(Scope 1)、購入電力などの間接排出(Scope 2)、そしてサプライチェーン等におけるその他の間接排出(Scope 3)に分類されます。
それぞれの範囲において議論が交わされ、特にScope 3については多様な事業活動を網羅する必要から、その算定方法に関する論点が多く存在します。企業がサプライチェーン全体での排出削減に取り組むためには、Scope 3の正確な評価が不可欠であり、改訂作業においてもその対応強化が求められています。
※参考:環境省 グリーン・バリューチェーン・プラットフォーム サプライチェーン排出量全般
カーボン・クレジットと排出量報告の扱いの違い

GHGプロトコルにおけるカーボン・クレジットの位置付け
GHGプロトコルでは、カーボン・クレジット(オフセット)は、Scope 1~3の排出量(インベントリ)を「控除して少なく見せる」形では扱わず、排出量とは別枠で報告(任意の情報として開示)することが基本です。
つまり、企業がカーボンオフセットに依存して排出量を実質的にゼロにする考え方ではなく、算定された排出量とオフセット活動が明確に区別される仕組みです。これにより、透明性と信頼性の高い排出量報告が維持され、各種環境基準や国際規格と一体となった評価が可能となっています。
▶カーボンクレジット(オフセット)については以下の記事で詳しく解説しています。
SHK制度との比較とその影響
一方で、日本国内で採用されているSHK制度(算定・報告・公表制度)では、「調整後排出量」の算定の中で、カーボン・クレジットを排出量の控除に使用することが許容される仕組みが採用されています。下記の表は、GHGプロトコルとSHK制度とのカーボン・クレジット取扱いの主な違いを示しています。
| 比較項目 | GHGプロトコル | SHK制度 |
|---|---|---|
| カーボン・クレジットの利用 | 排出控除に使用不可 | 排出控除に使用可能 |
| 報告方法 | 排出量と別々に報告 | 調整後排出量に組み込み |
| 企業への影響 | 国際基準対応重視 | 国内制度との整合性を図る |
このような仕組みの違いは、国内外の報告基準の調和や、企業の環境対策の戦略に大きな影響を与えるため、企業は両者の違いを十分に理解した上で、報告書の作成や環境戦略の策定を行う必要があります。
▶国内制度を踏まえた温暖化対策のポイントは、こちらの解説記事で紹介しています。
国内制度との整合性と企業の対応策

日本の温対法およびSHK制度との関連性
日本では、地球温暖化対策推進のための温対法に基づいたSHK制度が存在し、GHG排出量の算定・報告を義務付けています。しかし、GHGプロトコルとの間には算定対象や計算方法で相違が存在するため、企業は国内向けと海外向けで異なる算定方法を併用しなければならない状況にあります。
たとえば、温対法に基づくSHK制度は、事業者の排出量(自社の直接排出や購入電力等)を中心に算定・報告する制度であり、GHGプロトコルのScope 1~3区分をそのまま制度対象としているわけではありません。このため、サプライチェーン排出(GHGプロトコルでいうScope 3)は、CDPやSBT等の要請に応じて任意で算定・開示するのが一般的です。
こうした算定範囲や取扱いの違いは、企業の報告や評価に影響し得るため、目的(国内制度対応/国際開示対応)に応じた整理が重要になります。
企業が取るべき具体的な対応策
企業がGHGプロトコルの改訂に対応するためには、まず自社の温室効果ガス排出源を正確に把握し、各Scopeごとの排出実態を明確化することが重要です。また、以下の点に留意することが求められます。
- 内部報告体制の整備
社内における排出量算定のプロセスや管理体制を確立し、定期的な見直しを実施する。 - 外部専門家との連携
GHGプロトコルの改訂動向や国際基準への対応について、コンサルタントや認証機関と連携し、
最新情報に基づいた対策を講じる。 - 国内外の制度整合を意識した報告書作成
温対法やSHK制度の要件を踏まえながら、GHGプロトコルに則った報告書の作成を行い、
国内外のステークホルダーに対して一貫した情報を提供する。
さらに、デジタル技術を活用した排出量管理システムの導入や、持続可能なビジネスモデルの構築も、今後の企業経営における重要なテーマとなっています。
今後の展望とGHGプロトコルの将来像

改訂動向と最新事例の紹介
2022年以降、各国政府や企業からの要請に応じ、GHGプロトコルの改訂作業はグローバルな議論を巻き起こしています。特に、Scope 3の算定方法やカーボン・クレジットの評価基準の見直しは、今後の改訂作業において重要な論点となっており、各国の事例や先進企業の取り組みも参考にしながら、柔軟かつ堅牢な基準の確立が目指されています。
たとえば、欧州や北米では企業の脱炭素目標と連動して、サステナビリティ開示の制度・基準が整備され、GHG排出量の算定・開示(GHGプロトコル参照を含む)を求める動きが進んでいます。
デジタル技術や新たなビジネスモデルへの対応
加えて、IoTやビッグデータ解析、AIを活用した温室効果ガス排出量のリアルタイム管理システムの導入により、排出量のモニタリング精度は飛躍的に向上しています。これにより、企業は従来の手法に加えて、より柔軟で迅速な対応が可能になると期待されます。
また、再生可能エネルギーの融資やカーボンファイナンスなど新たなビジネスモデルが登場しており、GHGプロトコルはこれらの変革とともに進化する可能性があるため、企業は市場動向や技術革新を注視する必要があります。
まとめ

GHGプロトコルは、企業が温室効果ガス排出量を正確に把握し、透明性のある報告を行うための国際基準として、今後もその重要性を増していくことが予想されます。本記事では、GHGプロトコルの基本概念、改訂の背景、Scope別の論点、さらにはカーボン・クレジットの取り扱いや国内制度との整合性について詳述しました。
企業は、改訂動向を注視し、自社の排出量管理体制を最新基準に沿って見直すとともに、国内外の基準の違いを十分に理解した上で、持続可能な経営戦略を策定することが求められます。今後、技術革新や新たなビジネスモデルの台頭に伴い、GHGプロトコルも柔軟かつ高度な対応が迫られるでしょう。
また、デジタル化が進む中での排出量モニタリングシステムの活用は、正確なデータ取得と迅速な意思決定を可能にし、企業の環境対策の強化につながります。最終的には、国際的な温暖化防止目標を共有するグローバル企業として、透明性の高い情報開示と信頼性ある環境経営が、企業価値の向上に寄与すると考えられます。
▶こうした排出量管理の取り組みをどのように経営へと落とし込むかについては、以下のコラムをご参照ください。

