温対法(地球温暖化対策推進法)とは?法人の報告義務や脱炭素経営への戦略的活用を徹底解説

2024.04.15
2026.07.29
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2050年のカーボンニュートラル実現に向け、日本政府は2030年度の温室効果ガス削減目標を46%削減(2013年度比)とし、さらに50%の高みを目指すことを表明しています。この大きな目標達成の柱となる法律が「地球温暖化対策の推進に関する法律(以下、温対法)」です。

かつての温対法は、排出量の「集計と報告」という事務的な側面が強いものでした。しかし、近年の改正やGX(グリーントランスフォーメーション)関連法の整備により、今や企業にとって「脱炭素経営の成否を分ける実務的な指針」へと変貌を遂げています。

本記事では、温対法の基礎知識から、法人担当者が直面する算定実務、さらにはSBTやCDPといった国際的な枠組みへの戦略的活用までを詳しく解説します。

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温対法の概要と法人の義務(SHK制度)

温対法の目的と最新の動向

温対法は、地球温暖化対策を計画的に推進するための法的枠組みです。2021年の改正では、2050年カーボンニュートラルの実現が「基本理念」として法律に明記されました。これにより、国や自治体だけでなく、企業にも具体的な行動が強く求められるようになっています。

日本政府は2025年2月18日に第7次エネルギー基本計画を閣議決定しました。2040年度には温室効果ガスを2013年度比で73%削減するという目標(NDC)を掲げています。この目標達成に向け、温対法は企業の排出削減を加速させるための基盤となっています。

算定・報告・公表制度(SHK制度)の対象者

法人の実務において最も重要なのが「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度(SHK制度)」です。これは、一定以上の排出量がある事業者に対し、毎年度の排出量を国に報告することを義務付けるものです。

SHK制度の対象となる「特定排出者」の基準は以下の通りです。

対象区分基準条件
特定事業所排出者エネルギー起源CO2:全事業所の原油換算エネルギー使用量合計が1,500kl/年以上
非エネルギー起源CO2、CH4、N2O、HFC、PFC、SF6、NF3:ガスの種類ごとに対象活動に伴う事業者全体の排出量ががCO2換算で3,000t 以上
かつ常時使用する従業員が21人以上
特定輸送排出者省エネ法に基づく特定荷主、特定貨物輸送事業者、特定旅客輸送事業者、特定航空輸送事業者など、一定規模以上の輸送に関わる事業者が対象
※参照元:環境省 温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度の対象者

報告されたデータは国によって集計され、公表されます。2022年4月の温対法改正後の5月以降、報告は電子システム(EEGS)による原則電子報告が義務化され、公表までの期間も短縮されるなど、情報の透明性が一層高まっています。

実務担当者が押さえるべき排出量算定のポイント

Scope 1・2・3の概念と算定範囲

温対法に基づく報告では、条文上「Scope」という表現は用いられていませんが、実務上は自社の直接排出(一般にScope1と整理されるもの)と、他社から供給された電気等の使用に伴う排出(一般にScope2と整理されるもの)を中心に算定・報告する枠組みとなっています。

一方で、近年ではSBTなどの国際的な枠組みの中で、企業のサプライチェーン全体の排出(Scope3)を把握する動きが主流となってきています。

排出係数の種類と使い分け

電気の使用に伴う排出量の算定には、電力会社が公表する「排出係数」を用います。温対法の実務では、以下の2種類の係数を適切に理解しておく必要があります。

  • 基礎排出係数(非化石電源調整済):基礎排出係数に、電気事業者及び熱供給事業者が調達した非化石証書・グリーン証書・再エネ由来J-クレジットの環境価値を反映させた排出係数。

  • 調整後排出係数:基礎排出量から、非化石証書、グリーン電力証書、要件を満たすJ-クレジット等による調整を反映した「調整後排出量」の算定に関係する係数。

電力会社を選ぶ際、単に料金の安さだけでなく、この「調整後排出係数」が低い(あるいはゼロである)メニューを選択することが、法人として温対法上の調整後排出量や各種開示上の排出量低減につながり得ます。(※実際の削減効果や追加性・証書のトラッキング・SBT等各基準への適合性は別途確認が必要です。)

温対法と関連制度の相関関係(省エネ法・GX-ETS)

省エネ法との一体的報告

温対法と密接に関係するのが「省エネ法(エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律)」です。省エネ法が「エネルギーの使用効率(エネルギーの量)」を規制するのに対し、温対法は「温室効果ガスの排出量(CO2の量)」を規制します。

実務上、エネルギー起源CO2の報告内容は省エネ法の定期報告書と連動しており、一体的な報告が可能です。

成長志向型カーボンプライシングとGX-ETS

政府は「成長志向型カーボンプライシング」の導入を進めています。これは、炭素排出に値付けをすることで、排出削減に先行して取り組む企業の付加価値を高める仕組みです。

  • GX-ETS(排出量取引制度):一定以上CO₂を出している企業に「排出量の上限(キャップ)」を設定し、その範囲内で出した排出量の「排出枠(クレジット)」を企業同士で売買できるようにする制度で、2026年度から本格稼働しています。
    2026年度の日本における排出量(排出枠)取引の参考上限価格は4,300円/t-CO2に設定されています。欧州のEU-ETSでは既に80ユーロ(約1万3千円)程度で推移しており、日本の4,300円という上限価格は、欧州の3分の1程度に留まっています。
  • 化石燃料賦課金:2028年度から導入予定。化石燃料の輸入業者等に対して課されるもので、最終的にはエネルギー価格に反映されることが予想されます。

脱炭素経営への戦略的活用(SBT・CDP)

温対法への対応を単なる「コンプライアンス(法令遵守)」で終わらせず、企業のブランド価値や資金調達力の向上につなげるのが「脱炭素経営」の戦略です。

 SBT(科学的根拠に基づく目標)への認定

SBT(Science Based Targets)とは、パリ協定が求める水準(世界の気温上昇を1.5℃以内に抑える)に整合した企業の温室効果ガス排出削減目標です。温対法に基づき算定したデータを活用し、5年〜10年先の目標を設定して認定を受けることで、「持続可能な企業」としての国際的な信頼を得ることができます。

特にScope 3を含む削減が求められるため、サプライヤーに対しても削減を促すエンゲージメントが重要となります。

金融市場での評価を高めるCDP対応

投資家は、企業の気候変動リスクを重視しています。

  • CDP(Carbon Disclosure Project)世界の主要企業に気候変動対策の質問書を送り、その回答を評価・公開する国際NGO。

温対法の報告データを活用し、これらの枠組みに沿って積極的に情報を開示することで、ESG投資の呼び込みや融資条件の改善といったメリットを享受できます。環境省も「グリーンファイナンスサポーターズ制度」などを通じ、こうした企業の資金調達を支援しています。

具体的な排出削減策と実務的な判断基準

温対法の報告値を下げるためには、単なる節電だけでなく、エネルギー調達の抜本的な見直しが必要です。

再エネ調達(PPA・非化石証書)

再エネ導入には複数の手法があり、コストや追加性(新しく再エネ設備が増えることへの貢献)を考慮して選択します。

手法特徴法人のメリット
オンサイトPPA自社敷地内に発電事業者がパネルを設置初期費用ゼロで
再エネ導入、BCP対策
オフサイトPPA敷地外の再エネ発電所と長期契約を結び、系統を介して電力または環境価値を調達する手法。フィジカルPPAと、電力・環境価値の受渡し形態が異なるバーチャルPPAがある。大規模な電力を
長期間固定価格で調達
非化石証書購入電気そのものではなく「環境価値」のみ購入手軽に実質再エネ100%を
実現可能

J-クレジットとカーボン・クレジット市場

自社での削減が困難な排出量については、J-クレジット制度の活用が有効です。これは、他社による省エネ設備導入や森林管理による削減量をクレジットとして認証する制度です。

2023年10月には東京証券取引所に「カーボン・クレジット市場」が開設され、クレジットの価格公示と流動性が高まりました。これにより、企業は市場価格を参考にしながら、より効率的な削減投資の判断が可能となっています。

CCS(二酸化炭素貯留)事業法の創設

鉄鋼や化学、セメントなど、製造プロセス上どうしてもCO2排出が避けられない「Hard-to-Abate(排出削減困難)」産業において、期待されているのがCCS(CO2の回収・貯留)技術です。

2024年5月には「CCS事業法(二酸化炭素の貯留事業に関する法律)」が成立しました。これにより、CO2を地下約1,000m~3,000mほどにある貯留層に安定的に閉じ込める事業の許可制度が整い、2030年までの事業開始に向けた法的基盤が確立されました。先進的なCCS事業には政府による支援も行われており、将来的な排出削減の有力な選択肢となっています。

まとめ:温対法対応を企業の競争力に変えるために

温対法(地球温暖化対策推進法)は、もはや単なる環境規制ではありません。GX推進法やCCS事業法といった最新の法体系、そしてSBTやCDPといった国際的な情報開示のルールと一体となり、企業の「稼ぐ力」や「生き残り」を左右する重要な経営指標となっています。

法人担当者に求められるのは、単に排出量を計算して報告するだけでなく、そのデータを「GX投資の判断材料」や「投資家へのアピール材料」として戦略的に活用することです。

  • 正確な算定:EEGSを活用し、自社の排出状況についての網羅的な把握を行う。
  • コスト最適な削減:再エネPPA、J-クレジット、さらには将来的なCCSの活用を検討する。
  • 情報開示の強化:SBT認定やCDP回答を通じて、金融市場からの評価を獲得する。

日本のエネルギー需給構造が大きく転換する中、温対法を正しく理解し、先んじて対策を講じることは、持続可能な未来を築くと同時に、自社の競争力を高めるチャンスとなります。

>> 【法人のお客様向け】再生可能エネルギー由来の電力を組み合わせた環境配慮型電力プラン

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