間接送電権取引市場とは?エリア価格差リスクヘッジの仕組みと電力システムでの役割を徹底解説

2026.02.27
2026.07.08
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2016年の電力小売全面自由化以降、日本の電力市場は大きく変貌を遂げ、多様な取引市場が形成されてきました。その中で、電力の安定供給を支え、事業者のエリア間の価格差(混雑等に伴う価格分離)によるリスクを低減する上で重要な役割を担っているのが「間接送電権取引市場」、通称「間接オークション」です。
この市場は、特にエリア間の電力価格差によって生じるリスクをヘッジする目的で導入されました。しかし、「間接送電権」という言葉を聞いても、具体的にどのような機能を持つのか、どのように取引されているのか、疑問に感じる方も少なくないでしょう。本記事では、間接送電権とは何かという基本的な定義から、その取引の具体的な仕組み、JEPX(日本卸電力取引所)における精算方法、そして日本の電力システム全体の中でどのような位置づけにあるのかを解説します。電力市場の理解を深め、より効率的な取引戦略を構築するための一助となれば幸いです。

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間接送電権とは?その定義と特徴

間接送電権とは、日本の電力市場においてエリア間の電力価格差によって生じるリスクをヘッジするために、JEPX(日本卸電力取引所)が販売する特別な権利、または義務を指します。その本質を理解するためには、以下の3つの特徴を押さえることが重要です。

「電力を送る権利」ではない

まず最も重要なのは、間接送電権が「電気をあるエリアから別のエリアへ送電する権利」ではないという点です。送電は一般送配電事業者が管理する系統運用に基づいて行われ、間接送電権の保有者は送電容量を直接利用できるわけではありません。これは、送電網の混雑状況や設備の物理的な制約とは切り離された、あくまで経済的なリスクヘッジのための金融商品であるということを意味します。

エリア価格差の権利・義務

間接送電権の核心は、「エリア間のエリア価格差を受け取る権利、または支払う義務」であるという点にあります。日本の電力市場は、地理的なエリア(例えば、北海道、東北、東京、中部、関西、中国、四国、九州、沖縄)に分かれており、それぞれのエリアで電力の需給状況に応じて異なる価格(エリア価格)が形成されます。
(ただし、間接送電権は「連系線が存在するエリア間」を対象とするため、連系線のない沖縄エリアは実務上対象外となります。)

出典:JEPX「TRCF(2025年3月21日)検討会資料」

間接送電権は、特定の方向(例:エリアAからエリアB)に向けて購入されます。購入者がこの間接送電権を保有していると、実際にその時間帯にエリアAとエリアBの間で価格差が生じた場合、その価格差に応じた精算が行われます。具体的には、購入した方向(例:エリアA→B)に価格差(エリアBの価格>エリアAの価格)が生じていれば、その価格差を受け取る権利が発生します。逆に、逆方向の価格差(エリアAの価格>エリアBの価格)が生じた場合や、購入価格が価格差を上回った場合には、支払いの義務が生じます。

二次取引(転売)の現状と今後の検討状況

間接送電権は、JEPXが販売する有償の権利です。また、現行の取引制度では、取引所として二次取引(転売)の市場は設けられておらず、購入した際の保有状況は、取引所の管理のもとで取り扱われます。これは、純粋な金融商品としての特性を持ちつつも、電力の安定供給という公共性の高い側面を考慮した運用形態と言えるでしょう。

一方で、JEPXの「TRCF(2025年3月21日)」の検討会資料では、二次流通(権利移転を含む)の在り方が検討論点として整理されており、将来的な制度見直しの可能性が議論されています

(※現時点で転売が可能になると確定しているものではありません)。

間接送電権取引市場(間接オークション)の仕組み

間接送電権取引市場は、JEPX(日本卸電力取引所)で運営されています。その取引プロセスと精算方法は、電力事業者がエリア間の価格変動リスクを管理するために重要な役割を果たします。間接送電権は、連系線の混雑によって生じる「エリア間の価格差」を金銭で受け渡しする仕組みで、実際に電気を物理的に送る権利(物理送電権)ではありません。スポット市場等でエリアをまたぐ売買を行う事業者にとって、価格差リスクを管理するための金融的なヘッジ手段になります。

JEPXでの取引プロセス

EPXでは、特定の時間帯や期間(例えば、デイアヘッド市場での30分単位ごとの間接送電権)について、入札形式で間接送電権が販売されます。参加者は、希望する連系線方向(例:エリアA→エリアB)、希望する権利量、および入札価格を提示します。JEPXは、入札価格と、制度上設定された割当数量(連系線に紐づく上限数量)を前提に約定・割当を行います。

※約定方式(単一価格/マルチプライス等)や取引単位は商品・制度設計により定められています。

間接送電権の精算方法

間接送電権の精算は、対象期間中の各時間帯(翌日取引の各コマ)におけるエリア間の価格差(値差)をもとに行われます。精算は翌日取引の決済とあわせて行われ、JEPXから受け取り(交付)または支払い(徴収)が発生します。

精算額(JEPXから交付/徴収される「間接送電権の売買代金」)の考え方は、次のとおりです。

  1. まず、同じ時間帯の翌日取引における

    「送電先エリアの約定価格 − 送電元エリアの約定価格」(=価格差)を計算します。

  2. この価格差に掛ける量(精算対象量)は、原則は間接送電権の保有量ですが、同じ時間帯に自社が翌日取引で約定した量(※経過措置用の入札を除く)が保有量より少ない場合は、その約定量が上限になります。


    つまり、値差に掛けられるのは 「保有量」と「翌日取引の約定量」の小さい方です。

  3. そこから、間接送電権をオークションで購入した際のコスト(間接送電権の約定単価 × 保有量)を差し引きます。

式で表すと、以下のとおりです。

間接送電権の精算額(受取/支払) =〔送電先エリアの翌日市場価格-送電元エリアの翌日市場価格〕×〔精算対象量〕- 〔間接送電権の約定単価(オークション価格)×保有量〕

※価格(エリア約定価格・権利単価)は円/kWh、量はkWh相当として表記しています(実務上は、間接送電権の保有量[kW]を各30分コマでkWh相当に換算して積み上げて精算します)。

この計算結果がプラスなら受け取り(交付)、マイナスなら支払い(徴収)となります。なお、翌日取引の約定量が保有量を下回る場合、値差による精算はその約定量までに制限される一方、間接送電権の購入コスト(約定単価×保有量)は発生するため、想定どおりにヘッジするには翌日取引での約定量とのバランスにも注意が必要です。

また、精算対象量は、原則は「間接送電権の保有量」ですが、同じ時間帯に自社がJEPX翌日市場で約定した電力量(※経過措置用を除く)が保有量より少ない場合は、その約定電力量が上限になります。(つまり 「保有量」と「翌日市場の約定量」の小さい方が、値差に掛けられる量です)


例:保有量100、翌日市場の約定量80、値差2円/kWh、権利単価1円/kWhの場合、値差の対象量は80(保有量より小さいため)

精算額=2円×80-1円×100=+60円(受取)

参考文献:一般社団法人日本卸電力取引所 取引規程 第1章 総則

精算事例で見る損益シミュレーション

オークションで落札された各電源は、電力広域的運営推進機関(OCCTO)との間で「容量確保契約」を締結します。この契約により、発電事業者は一定期間、オークションの約定結果に基づき、約定容量に応じた容量確保の対価(容量確保契約金額)を受け取ることができます。この収入の原資は、電力小売事業者や送配電事業者が支払う「容量拠出金」により賄われます。結果として、容量市場は、将来にわたる供給力(kW)の確保に向けて、発電事業者の投資回収の予見を高め、今後の発電設備への投資や既設設備の更新を促進する効果が期待されます。

実際の取引では、エリア間の価格差が購入者の損益にどのように影響するかを理解することが重要です。ここでは、具体的な数字を用いて、間接送電権の精算による損益をシミュレーションしてみましょう。

【間接送電権 精算損益シミュレーション】
(前提:エリアA→Bの間接送電権を1単位購入した場合)

事例エリアA 価格エリアB 価格エリアA→B
 間接送電権購入価格
エリア価格差  (B-A)間接送電権算額
(価格差)
最終損益 
(精算額 – 購入価格)
ケース1: 順方向の価格差で利益10円/kWh12円/kWh1円/kWh+2円/kWh+2円/kWh (受取)+1円/kWh
解説: エリアAからBへ電力供給が有利な状況。購入価格以上の価格差が生じ、利益を得る。
ケース2: 順方向の価格差だが損失10円/kWh12円/kWh3円/kWh+2円/kWh+2円/kWh (受取)-1円/kWh
解説: エリア価格差は発生したが、購入価格がそれを上回ったため、結果的に損失。
ケース3: 逆方向の価格差で損失12円/kWh10円/kWh1円/kWh-2円/kWh-2円/kWh (支払)-3円/kWh
解説: 購入方向と逆の価格差(Bの価格がAより低い)が生じ、精算額が支払いとなり、購入価格と合わせて損失。
ケース4: 逆方向の価格差で大きな損失12円/kWh10円/kWh3円/kWh-2円/kWh-2円/kWh (支払)-5円/kWh
解説: ケース3と同様に逆方向の価格差だが、購入価格が高かったため、より大きな損失。

※実際の精算では、値差を掛けられる数量は「間接送電権保持量」と「当該時間帯の翌日取引約定量(経過措置用除く)」のいずれか小さい方となる(取引規程第89条)。翌日取引の約定量が小さい場合、想定より受取が小さくなる(または支払が増える)ことがある。

※取引規程で定義されるJEPXからの受払(「間接送電権の売買代金」)は概ね、(価格差×精算対象量)-(間接送電権の約定単価×保有量)のネット額である。本表では分かりやすさのため、値差部分と権利代(購入価格)を分けて示している。

このシミュレーションから、間接送電権はエリア間の価格差を予測し、適切な価格で購入することでリスクヘッジや収益機会を生み出す可能性がある一方で、予測が外れた場合には損失が発生するリスクも内包していることがわかります。

なぜ間接送電権が必要なのか?その役割とメリット

間接送電権取引市場は、単にリスクヘッジの手段としてだけでなく、電力市場全体の効率化と健全な発展に多角的に貢献しています。

エリア間の価格変動リスクをヘッジ

電力は貯蔵が難しく、需給バランスが崩れると価格が大きく変動します。特に、災害や発電所のトラブル、季節的な需要変動などにより、隣接するエリア間で一時的に電力価格に大きな差が生じることがあります。
小売電気事業者や発電事業者にとって、こうしたエリア間の価格差は予期せぬコスト増や収益減につながるリスクとなります。間接送電権は、このエリア価格差リスクを事前にヘッジできる有効な手段です。例えば、あるエリアで安く電力を調達し、隣のエリアで高く販売しようとする際に、連系線の混雑によって価格差が生じるリスクを間接送電権でカバーすることで、安定した事業運営が可能になります。

広域メリットオーダーの促進

広域メリットオーダーとは、全国の発電所の中で、最も安価な電源から順に活用していくことで、全体として効率的な電力供給を実現する仕組みです。エリア間の連系線は、この広域メリットオーダーを達成するために不可欠なインフラですが、物理的な送電容量には限りがあります。間接送電権取引市場は、市場メカニズムを通じて連系線の容量を効率的に配分し、電力の広域融通を促します。事業者は、価格差の発生を予測し、間接送電権を購入することで、連系線の利用価値を評価し、結果としてより効率的な電力融通が促進されます。これにより、特定のエリアでの供給過剰や不足が緩和され、電力システム全体の効率性が向上します。

中長期的な電力取引の活性化と予見性向上

電力システム改革の検証結果において、スポット市場の価格変動幅が大きいことや、それに伴う小売電気事業者の休廃止、電気料金の高騰などの課題が指摘されています。また、発電事業者にとっても、価格変動の大きさは事業の予見性を低下させ、電源投資や長期的な燃料調達に悪影響を及ぼす懸念がありました。

これらの課題に対応するため、「中長期での電力取引の推進」が重要視されており、間接送電権はその一翼を担います。間接送電権を通じて、事業者は将来のエリア間価格差のリスクを管理できるようになるため、より安心して中長期の電力取引や相対契約を締結することが可能になります。これにより、発電事業者の燃料確保や設備投資の予見性が向上し、電力供給全体の安定化に寄与します。

電力システム改革における間接送電権市場の位置づけ

間接送電権取引市場は、日本の電力システム改革全体の中で、電力の安定供給と脱炭素化の推進という二つの大きな目標達成に貢献する重要な要素として位置づけられています。

多様化する電力市場の構成

日本の電力市場は、多岐にわたる機能を持つ市場で構成されています。資源エネルギー庁の資料によると、電力市場は大きく分けて「供給力を確保するための取引市場・制度」と「確保した供給力を最適運用する取引市場」に分類されます。

  • 供給力を確保するための市場・制度:
    • FIT/FIP制度(再生可能エネルギーの導入促進)
    • 容量市場(将来の供給力確保)
    • 長期脱炭素電源オークション(脱炭素電源への新規投資促進)
  • 確保した供給力を最適運用する取引市場:
    • 中長期取引: 先物市場、先渡市場、相対契約など。
    • 短期取引: スポット市場、時間前市場。これらは実需給段階での効率的な広域メリットオーダーを実現します。

※需給調整市場は、一般送配電事業者が調整力(予備力等)を調達する市場であり、実需給における需給・周波数の維持を支えます。

間接送電権は、現在は週間商品の取引のみですが、年間商品の取引も検討されており、特に中長期取引市場の活性化を支えるインフラとして機能することが期待されています。エリア間の価格差リスクを管理することで、事業者がより積極的に中長期的な契約を結べるようになり、市場全体の流動性と予見性が高まります。
その他にも、電力システムを構成する重要な市場として、電力の需給バランスを調整する「需給調整市場」や、非化石電源の環境価値を取引する「非化石価値取引市場」などがあります。これらの市場が複合的に機能することで、より効率的で安定した電力供給システムが構築されています。

※間接送電権の商品設計(期間商品・対象時間帯等)は拡充が議論されることもあるため、最新の公表資料を確認することが重要です。

安定供給と脱炭素化への貢献

変動性再生可能エネルギー(VRE)の導入が進む中で、電力系統の安定性はより重要になっています。地域間の電力融通は、VREの出力変動を吸収し、安定供給を維持するために不可欠です。間接送電権は、連系線を介した電力融通の経済的インセンティブを提供し、広域での電力最適運用を支援します。これにより、特定のエリアでの需給ひっ迫リスクを低減し、全国規模での安定供給に貢献します。

また、脱炭素化の観点からも、間接送電権は重要です。再生可能エネルギーの導入は地域偏在性を持つため、発電量の多い地域から需要地への効率的な送電が求められます。間接送電権を通じて連系線の活用が促進されることは、再生可能エネルギーの有効活用を促し、日本のエネルギーミックスにおける脱炭素電源比率の向上に貢献すると期待されています。

まとめ間接送電権取引市場が拓く電力の未来

間接送電権取引市場は、一見複雑に見えるかもしれませんが、電力の安定供給と市場の効率化を支える非常に重要な仕組みです。

  • 間接送電権は、「電力を送る権利」ではなく、「エリア間の電力価格差を受け取る権利、または支払う義務」を指します。
  • JEPXで取引され、エリア間の価格差リスクをヘッジする有効な手段です。
  • 具体的な精算は、購入価格と実際のエリア価格差によって決まり、損失を被るリスクも存在します。
  • エリア間の価格変動リスクのヘッジ、広域メリットオーダーの促進、中長期電力取引の活性化を通じて、電力システム全体の効率性と予見性を高めます。
  • 電力システム改革において、安定供給と脱炭素化の実現に向けた多様な市場の一角を担っています。

電力自由化の進展とともに、電力市場は日々進化を続けています。間接送電権取引市場は、その中で事業者がリスクを管理し、より柔軟かつ効率的に電力取引を行うための基盤を提供しています。今後も、電力の安定供給と持続可能な社会の実現に向けて、その役割はますます重要になるでしょう

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