需給調整市場の最前線:最新動向とアグリゲーターが果たす革新的役割
近年、再生可能エネルギーの急速な導入や、各国の脱炭素政策推進に伴い、電力システム全体の柔軟性確保が求められています。電力は瞬時に需要と供給のバランスを達成する必要があり、従来の発電中心のシステムでは対応が難しくなる場面が多くなってきました。
そこで注目されるのが「需給調整市場」です。この市場は、OCCTO(電力広域的運営推進機関)が市場を運営し、一般送配電事業者が調達主体として電力需給の急激な変動に対応するための調整力を柔軟かつ効率的に取引する仕組みです。
本記事では、需給調整市場の概要、最新動向、さらに分散型電源や小規模需要家を束ねるアグリゲーターが担う役割について、最新の事例やデータを交えて詳しく解説します。
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目次
需給調整市場とは?

市場の背景と目的
従来の電力供給システムでは、発電所の稼働計画に基づき、需要と供給のバランスを取ることが重要でした。しかし、再生可能エネルギー(太陽光、風力など)の導入が進むと、発電量の変動性が増し、従来の計画的供給だけでは安定運用が困難になります。そのため、各一般送配電事業者は、リアルタイムにおける微妙な需給バランスの調整が求められるようになりました。
需給調整市場は、系統運用者が調整力―すなわち、突然の需要変動や発電量の予測誤差に対応するための「予備電力」を柔軟に取引する市場です。より具体的には、市場参加者が供給力や調整力を前日・週間等の事前に(主としてkWとして)確保できる仕組みを整備することで、電力システム全体の安定性を保ち、供給中断等のリスクを低減させることを目的としています。
調整力の種類と役割
需給調整市場で取引される調整力は、基本的に大きく3つのカテゴリーに分かれます。
各カテゴリの特徴は下表にまとめています。
| 調整力カテゴリー | 特徴と用途 |
|---|---|
| 一次調整力 | 最も迅速に反応できる調整力(秒単位)。 短期間での急激な需給変動に対応。 |
| 二次調整力 | 中間的な時間枠(数分~十数分)で需給バランスを調整。一定期間の需給誤差に対応。 |
| 三次調整力 | 長い時間(十数分~数時間)にわたる需給誤差を補正。特に再エネの予測誤差への対応に利用。 |
これらの調整力は、各送配電事業者が需要に応じた最適運用を実現するため、市場で取引され、実需給断面における誤差を極力抑制する役割を果たしています。一方で、需給調整市場の商品としては、一次調整力、二次調整力①/②、三次調整力①/②、のように複数の商品に区分されます。制度設計専門会合や各種委員会での議論を経て、これらの調整力商品が導入され、市場取引への段階的組込みが進められてきました。
さらに、近年のICT技術の進展や市場参加者の多様化により、取引の透明性と柔軟性が向上し、新たな商品設計の検討も進行中です。これに伴い、需給調整市場は、制度・システム整備に合わせて商品ごとに段階的に市場取引へ移行しており、(開始済みの三次商品等に続き)残る商品も順次拡大する方針です。あわせて、低圧リソースについても制度整備・計量/通信要件の整備状況を踏まえ、段階的な参加拡大が検討されています。
需給調整市場の仕組みと運用方法

市場取引の流れとルール
需給調整市場は、一般送配電事業者が対象となる調整力を、入札や公募を通じて調達するシステムです。具体的な取引の流れは以下の通りです。
- 公募・入札の実施
送配電事業者は、必要な調整力(例:瞬間的な需給誤差に対して、一次調整力)や予測誤差に対応するための三次調整力などを公募します。 - オファーの提出
電力供給側の事業者は、自社の発電設備の能力やDR(需要応答)資源としての調整可能な電力量を提示します。 - マッチングと約定
システム的な評価に基づき、最適な価格と数量で取引が成立し、必要な調整力が確保されます。 - リアルタイム運用
実際の需給バランスの変動に応じ、確保した調整力が使用され、系統の安定運用が支えられます。
取引ルールは、各調整力商品の反応速度や市場での入札情報(例えば、入札価格(容量単価等)や王道特性、継続時間、軽量・通信要件など)を考慮し、最適なマッチングを実現するために厳密に定められています。市場運用においては、需給バランスや系統送電容量制約を考慮しながら、発電コストの効率化や約定した容量の大家(容量支払)や、発動時の精算といった仕組みも導入されています。
各調整力商品の特徴
これまで、一次・二次・三次調整力と言った区分が市場で用いられてきましたが、それぞれの応動時間や運用目的が異なります。以下は、その特徴を再確認するための具体的なポイントです。
- 一次調整力
出力変動への即時対応が求められるため、最速の反応速度を持ち、短い時間枠の運用に適用。 - 二次調整力
需要と供給の落差が中期的に解消される役割を担い、システム全体で固有の余裕を確保。 - 三次調整力
再エネの予測誤差など、長時間にわたる微調整を目的とした商品。
特に新電力市場における需給バランス維持(予測誤差や計画差分への対応等)に用いられる調整力商品。
これらの調整力は、電力市場全体の運用の柔軟性を高めるために不可欠な要素であり、今後も制度設計の見直しやシステム改修が進む中で、より細分化され、取引の効率化が進んでいく見込みです。
最新の市場動向と国際比較

日本における制度設計の進展
近年、日本では電力システム改革の一環として、需給調整市場の詳細な設計が着実に進展しています。2021年4月からは、三次調整力の一部の市場取引が開始され、2025年度には全ての調整力商品の市場取引への移行が予定されています。これにより、従来のエリア単位での公募調達から、より広域的かつ効率的な市場運用へとシフトする計画が進行中です。現状、各一般送配電事業者のシステム改修やルール検討が慎重に進められ、系統の中立性を維持しながら、調整力の公正な取引環境が整いつつあります。
また、再生可能エネルギーの比率が上昇する中、需給調整市場は変動性再エネ電源の大量導入を前提とした電源運用の効率化や、需給調整(バランシング)に要する調達・運用コストの抑制といった効果も期待されています。
欧米諸国の事例とその影響
世界の先進国、特に欧州や北米では、既に需給調整市場が高度に整備され、前週や直前における調整力の調達が行われています。欧州連合(EU)では、需給調整(バランシング)についても、国境を越えた都営引きプラットフォーム(例:PICASSO/MARI/TERRE 等)を通じた統合が進展しています。こうした国際動向は、日本における同様の取り組みへの良い影響を及ぼし、需給調整市場のグローバルな位置付けを加速させています。
アグリゲーターの挑戦と役割

アグリゲーターとは何か?
需給調整市場の登場により、従来は大規模発電所や大口需要家が主体となって取引されてきた調整力の調達に、近年では小規模な分散型エネルギー資源(DER)や需要応答(DR)なども参入するケースが増えています。ここで重要な役割を担うのが「アグリゲーター」です。
アグリゲーターとは、多数の小規模電源や需要家の余剰調整能力を束ね、一つの大きな調整力として市場に供給する事業者を指します。個々の小規模リソース単体では市場取引が難しい場合も、アグリゲーターが集約することにより、全体の取引量を拡大し、電力市場における小口プレーヤーの参入障壁を下げる役割を果たしています。
分散型資源を束ねる仕組みとメリット
アグリゲーターは、各家庭や企業、太陽光発電システム、蓄電池システム、さらには産業界における需要応答プログラムなど、多種多様な調整資源からデータを収集し、リアルタイムに管理します。これにより、系統全体における調整可能な余力の合算が行われ、市場参加者として一括して取引に臨むことができるのです。
具体例として、過去の実績では、地域ごとに複数の小規模蓄電システムを統合し、急激な需要増加時に短期間の電力量を市場に提供する事例が報告されています。また、アグリゲーターは市場のルールに合わせ、入札価格や提供可能量、応動時間・継続時間、発動制約等の入札パラメータを登録し、各入札情報の効率的なマッチングを支援するシステムを導入するなど、技術的な革新も進められています。
アグリゲーターのメリット
- 市場参加のハードルが低減されるため、中小規模需要家・分散型資源の活用が促進される。
- 全体の調整力を均質化することで、市場価格の安定性や需給バランスの最適化に貢献。
- 再生可能エネルギーのさらなる普及に伴う変動性リスクの低減につながる。
▶アグリゲーターの詳しい役割や活用方法については以下記事も併せてご確認ください。
今後の展望と課題

技術革新とシステム改修の必要性
需給調整市場は、再エネの割合が高まる中で今後も重要性が増すと予想されます。実際に、各事業者のシステム構築やルール検討が急務となっており、現行のインフラが変動性再エネ電源の大量導入に対応できるよう、システムのアップグレードや改修が進められています。
また、需給調整市場内での各調整力商品の統合運用(調達タイミング(前日・週間等))やゲートクローズの在り方は商品ごとに設定されており、制度見直し・システム対応に応じて変更が検討されています。例えば将来的な同時市場の導入検討など)により、電力と調整力の最適な組み合わせによる効率化も求められています。
新たな取引形態の検討
日本国内の各エリアで独自に運用される調整力を、電力全体の最適運用に融合させる試みが進められており、これにより、不均一な需要や送電容量の制約を克服する新たな取引形態へのシフトが期待されます。また、国際的な統合市場の動向も注視される中、広域マーケットにおけるルール整備の課題や、地域間の連携強化が求められます。
まとめ

需給調整市場は、再生可能エネルギー普及の波を背景に、電力需給の不確実性に対応するための革新的な仕組みとして確固たる地位を築いています。一次、二次、三次といった各調整力商品を通じ、系統全体の安定運用が図られるとともに、従来の大口プレーヤーだけでなく、アグリゲーターによる小規模資源の集約が、新たな市場形成に寄与しています。
最新の動向として、日本国内における制度設計やシステム改修が進む中で、欧米諸国との連携や広域化を視野に入れた新たな取引形態も模索されています。これにより、市場としての競争力や運用効率が向上し、さらに変動する再エネ電源の大量導入にも柔軟に対応できる体制が整いつつあります。
一方で、技術革新を先導するアグリゲーターの役割は、需要家・分散型電源の参入障壁を下げ、全体としての調整力の充実を促進する点で非常に重要です。市場参加者全体が連携し、ルールやシステムの整備を進めることで、将来的な電力需給の不確実性に対し、より強固な安定性と効率性を実現することが期待されます。
電力システム全体の中立性を維持しながら、効率的な調整力の取引を促進する需給調整市場は、今後も持続可能なエネルギーシステムの基盤として、その重要性を増していくでしょう。政府および各業界関係者、そして市場参加者は、引き続き最新動向を注視し、技術革新と組織の柔軟な対応を進めることが求められます。

