【法人向け】電力需給ひっ迫の背景と企業が取るべき対策とは?コスト削減とBCPを両立する電力戦略を徹底解説
近年、日本国内では夏季や冬季の電力需要が高まる時期を中心に、「電力需給ひっ迫」のリスクが継続的な経営課題として意識されるようになっています。特に2025年度は、夏季に高気温の影響で需要が増加した地域もありました。2026年度も、夏季・冬季の気温、発電設備の稼働状況、燃料・市場価格などを踏まえ、需給動向を継続的に注視する必要があります。
電力需給のひっ迫は、単なる「節電の呼びかけ」に留まらず、法人の事業活動においては電気料金の急騰や、最悪のケースでは計画停電による操業停止といった甚大なリスクを内包しています。また、脱炭素経営が求められる昨今、エネルギーの安定確保とカーボンニュートラルの両立は、経営上の最優先課題の一つとなっています。
本記事では、最新の公的資料に基づき、電力需給ひっ迫の現状と構造的要因を整理した上で、法人が取るべき実務的な対策と電力調達戦略について詳しく解説します。
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目次
電力需給ひっ迫の定義と2025年度の現状

需給ひっ迫の発令基準(注意報・警報)
電力需給ひっ迫とは、電力の需要(使う量)に対して、供給できる能力の余力(予備力)が不足する状態を指します。この指標となるのが「広域予備率」です。安定供給には最低限3%の予備率が必要とされており、これを下回る見通しとなった場合に、政府から以下の情報が発信されます。。
| 区分 | 発令の目安(広域予備率) | 具体的な内容・対応 |
|---|---|---|
| 需給ひっ迫準備情報 | 5%を下回る見通し(前々日) | 需給ひっ迫の可能性を事前に周知 |
| 電力需給ひっ迫注意報 | 5%を下回る見通し(前日) | 無理のない範囲での節電を要請 |
| 電力需給ひっ迫警報 | 3%を下回る見通し(前日) | 踏み込んだ節電要請、計画停電の準備 |
| 計画停電の実施発表 | 需給対策を講じても安定供給を確保できないおそれがある場合に検討される最終手段 | 最終手段として特定のエリアを順次停電 |
電力ひっ迫注意報が発令されると、企業や家庭に対して節電が呼びかけられます。具体的には、照明の削減や不要な電気機器の使用停止などが推奨されます。一方、電力ひっ迫警報となると、計画停電の準備が必要となり、緊急時には停電が実施される可能性があります。このため、警報が発令された際には、事業継続計画(BCP)の見直しや非常用電源の確保など、より具体的な対策が求められます。
2025年度夏季の振り返りと冬季の見通し
2025年度夏季は、全国的な高気温により、一部エリアで「10年に一度の猛暑」を想定した需要(猛暑H1需要)を上回る実績を記録しました。特に東北エリアでは5日、北陸エリアでは2日、想定需要を超過しています 。
2025年度冬季については、当時公表された需給見通しにおいて、一部エリアで予備率が厳しい水準となる月が示されていました。
また、2026年度夏季に関しても、供給計画や需給見通しでは、追加供給力の確保の有無、気温、発電設備の稼働状況などによって予備率が大きく変動し得ることが示されています。企業は、経済産業省や電力広域的運営推進機関が公表する最新情報を確認することが重要です。2. 電力需給がひっ迫する「3つの構造的要因」
なぜ、かつては盤石だった日本の電力需給がこれほどまでに不安定化しているのでしょうか。そこには3つの構造的な要因があります。
電力需給がひっ迫する「3つの構造的要因」

火力発電所の休廃止と老朽化
電力システム改革以降、発電部門の自由化と競争が進んだ結果、稼働率の低い老朽火力の維持が困難になっています。2025年度の供給計画では、LNG(液化天然ガス)や石炭火力の休廃止が新増設を上回る規模で推移しています。特に、東京エリアの火力発電設備のうち、運転開始から30年以上経過した設備が大きな割合を占めており、計画外停止(トラブル)のリスクが高まっています。
再生可能エネルギーの変動性と調整力不足
太陽光発電などの再生可能エネルギーの導入拡大は脱炭素化に寄与する一方、天候による出力変動が激しいという課題があります。特に太陽光の発電がなくなる夕方の時間帯には、需要の増加と再生可能エネルギー出力の低下が重なることで、必要な供給力や調整力を確保する重要性が高まります。加えて、これを補うための火力発電(調整力)の休廃止・計画外停止、系統制約、蓄電池やDRを含む調整手段の確保状況なども、需給の安定性に影響します。
DX・GX進展に伴う電力需要の増加
デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展により、生成AIの活用やデータセンターの増設が加速しています。また、グリーントランスフォーメーション(GX)の一環として、産業界での高炉から電炉への転換といった「電化」が進んでいます。このように、データセンター、半導体工場、電化の進展などを背景に、今後の電力需要は中長期的に増加する見通しが示されています。地域や時期によっては、需要増加に対応した系統・電源・調整力の整備が課題となります。
法人企業が直面する具体的なリスク

電力需給ひっ迫は、法人企業に対して主に「コスト」と「BCP」の2面で深刻な影響を及ぼします。いて解説します。
市場価格高騰によるコスト増大
現在、多くの法人が「市場連動型」の電力プランや、基本料金・電力量料金に市場価格が反映される仕組みを契約しています。日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格は、需給がひっ迫すると急騰する特性があります。
資料によれば、2022年度には燃料高騰と需給不安からスポット価格の年間平均が20.41円/kWhまで跳ね上がりました(東京エリアにおいては、2022年度年間平均は23.50円/kWh、2022年3月23日には日平均76.73円/kWhまで跳ね上がりました) 。このように、需給ひっ迫や燃料価格の上昇局面では、JEPXスポット価格が大きく変動することがあります。そのため、市場連動型プラン、燃料費調整・市場価格調整の仕組みを含む契約では、電気料金が上昇する可能性があり、契約条件によっては収益性への影響が大きくなるおそれがあります。
事業継続計画(BCP)への影響
万が一、広域予備率が1%を下回る見通しとなった場合、最終手段として「計画停電」が実施される可能性があります。製造業における生産ラインの停止、データセンターにおけるサーバーダウン、物流拠点における冷蔵・冷凍設備の停止などは、直接的な損失だけでなく、サプライチェーン全体への信頼失墜を招きます。
需給ひっ迫を乗り越えるための法人向け電力戦略

これらのリスクに対し、法人は単なる「節電」を超えた戦略的な対応が求められます。
デマンドレスポンス(DR)の活用と収益化
デマンドレスポンス(DR)とは、需給ひっ迫時に企業が電力使用量を抑制(下げDR)したり、逆に再エネ余剰時に使用量を増やしたり(上げDR)することで、報酬を得る仕組みです。
2023年4月に施行された改正省エネ法では、一定規模以上の事業者に対し、電気需要最適化に資する取組として、デマンドレスポンス(DR)を含む取組状況の定期報告が求められています。企業にとっては、ひっ迫時の電気代高騰を回避するだけでなく、節電した電力を「ネガワット」として売却し、新たな収益源とすることも可能です。
電力調達の多角化(中長期取引・PPA)
スポット市場の価格変動リスクを回避するためには、調達方法の多角化が有効です。
政府は現在、スポット市場への過度な依存を是正するため、実需給の数年前から電力量を確保する「中長期取引市場」(長期脱炭素電源オークション、容量市場、中長期取引の活性化などを通じ、電源投資の予見可能性と供給力の確保に向けた制度)の整備を進めています 。また、コーポレートPPAは、発電事業者等との長期契約を通じて、再生可能エネルギー由来の電力または環境価値を中長期で調達する選択肢です。そのため、需給ひっ迫に左右されない安定した価格で、かつ脱炭素価値(非化石証書など)の付いた電力を長期間確保することが可能になります。
分散型電源と蓄電池の導入
自社施設への太陽光パネル設置(自家消費)や、産業用蓄電池の導入は、ひっ迫対策として極めて有効です。
蓄電池を活用すれば、安価な時間帯や太陽光で発電した電力を貯めておき、需給がひっ迫して価格が高騰する夕方の時間帯に使用する「ピークカット」が可能になります。これは契約電力や最大需要電力に基づいて基本料金が決まる料金メニューでは、最大デマンドの抑制につながる可能性があります。ただし、効果は料金メニュー、運用方法、蓄電池の容量・充放電制御等に左右されます。それらを加味したうえで、蓄電池を導入することで電気料金の基本料金(最大デマンド値)の抑制にも直結し、恒久的なコスト削減に寄与します。
まとめ:持続可能なエネルギー戦略に向けて

電力需給ひっ迫は、日本のエネルギー構造が抱える根深い課題であり、第7次エネルギー基本計画では、脱炭素電源の拡大、系統整備、蓄電池・DR等の柔軟性の確保を進める方針が示されています。一方で、電源の新増設、既存設備の維持・更新、需要増への対応には一定の時間を要するため、企業には中長期的な視点で電力調達・BCP・脱炭素対応を一体で検討することが求められます。法人企業にとって、電力はもはや「与えられるインフラ」ではなく、自ら戦略的に調達・管理すべき「経営資源」へと変化しています。
最新の需給状況を注視しつつ、DRへの参加やPPAの検討、蓄電池の導入といった具体的なアクションを講じることは、単なるリスク回避に留まりません。それは、エネルギーコストの上昇に強い経営体質を構築し、同時に脱炭素社会への適応を示す「攻めの経営」へと繋がる道でもあります。
2025年2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画および電力システム改革に関する制度検討を踏まえ、市場環境は今後も変化していくと考えられます。企業担当者は、公的な情報を適時収集し、自社の事業形態に最適な電力戦略を再構築することが求められています。

