電力がひっ迫する理由は?原因と対策を詳しく解説
2024.05.31
2024.05.31
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政府は2022年3月21日、東京電力パワーグリッド管内において、初めて電力需給ひっ迫警報を発令しました。3月22日には、東京電力パワーグリッド・東北電力ネットワーク管内の電力需給が極めて厳しい状況となり、経済産業大臣による更なる節電の呼びかけが行われました。[1]

電力需給のひっ迫はなぜ起こるのでしょうか。政府は、省エネ政策や再生可能エネルギー導入促進など、様々な対策を講じていますが、今後も電力需給ひっ迫が発生する可能性は否定できません。その為、企業にとって、電力ひっ迫は事業継続のリスクとなり、生産活動の停止や経済活動への打撃など、様々な影響を与える可能性があります。

本記事では、電力需給のひっ迫が起こる原因や対策について詳しく解説します。

[1]経済産業省 資源エネルギー庁「東京電力及び東北電力管内における電力需給ひっ迫について」

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電力ひっ迫とは?

電力需給のひっ迫とは、電力の需要と供給能力のバランスが崩れた状態を指します。また、電力需給がひっ迫しているかどうかは、広域予備率と呼ばれる指標に基づいて判断されます。

予備率とは、電力の需要に対し、供給能力にどこまで余裕があるかを数字で表したものです。供給÷需要の比率が100%を下回ると、停電が発生する可能性が高くなります。予備率は、供給能力が需要をどれだけ上回っているかを示す指標であり、100%を上回ることが重要です。予備率の目安は、安定供給には最低3%、7~8%が理想とされています。予備率が低いと、電力需給ひっ迫のリスクが高くなり、計画停電などの対策が必要となります。また、広域予備率とは、電力の需給バランスをエリア単位ではなく、複数のエリアにまたがる広域ブロック単位で算定した場合の予備率のことを指します。

日本国内において、電力の供給エリアは北海道から沖縄まで10のエリアに分かれています。このうち、沖縄を除く北海道から九州までの9つのエリアは、地域間連系線と呼ばれる送電網で一つにつながっており、電力が不足したときは別のエリアから電力を融通することが可能です[2]。その為、特定のエリアで予備率が低下したとしても、直ちに電力需給のひっ迫は起こりません。

電力需給のひっ迫は、まず広域ブロック単位で電力の調達を行った上で、追加の供給対策を行ってもなお、予備率が基準を下回る場合に起こります。例えば、2022年3月には、発電所の停止や寒さによる需要の大幅な増大と悪天候による太陽光の出力不足により需要量に供給量が追い付かない状況になりました。その際に、東京電力パワーグリッドおよび東北電力ネットワーク管内における電力需給のひっ迫では、供給能力に余裕のあった東北電力ネットワーク管内から東京電力パワーグリッド管内に電力が最大限供給されたもののなお電力が不足したため電力需要のひっ迫が起こりました[1]

広域予備率が低下すると、電力需給の切迫度に応じて、経済産業省資源エネルギー庁が電力需給ひっ迫警報や電力需給ひっ迫注意報を発令し、企業や一般家庭に節電を要請する仕組みになっています。

[2]経済産業省 資源エネルギー庁「2024年度以降の電力需給運用」

電力需給ひっ迫注意報

電力需給がひっ迫する可能性がある場合、まず前々日の18時を目処として、一般送配電事業者から電力需給ひっ迫準備情報が発信されます。

その後、あらゆる供給対策を行っても広域予備率が3~5%まで低下する見通しになった場合、前日の16時を目処として資源エネルギー庁が電力需給ひっ迫注意報を発令し、生活や経済活動に支障のない範囲で節電への協力を要請します。

電力需給ひっ迫警報

広域予備率が3%を下回る恐れがある場合は、電力需給ひっ迫注意報ではなく、電力需給ひっ迫警報が発令されます。電力不足解消のため、計画停電を実施する可能性がある場合は、以下の一般送配電事業者のホームページにおいて情報が公開されます。

  • 北海道電力ネットワーク株式会社
  • 東北電力ネットワーク株式会社
  • 東京電力パワーグリッド株式会社
  • 中部電力パワーグリッド株式会社
  • 北陸電力送配電株式会社
  • 関西電力送配電株式会社
  • 中国電力ネットワーク株式会社
  • 四国電力送配電株式会社
  • 九州電力送配電株式会社
  • 沖縄電力株式会社
  • 送配電網協議会
  • 電力広域的運営推進機関

その後、当日になっても需給状況が改善しない場合や、より厳しい状況になった場合は、資源エネルギー庁から続報が発表されます。特に節電要請を行ってもなお、広域予備率が1%を下回る見通しの場合、電力が不足するブロック内の携帯電話を保有するユーザーに対し、緊急速報メールが配信されます。計画停電の実施が決まった場合も同様です。

電力ひっ迫が発生する原因

電力ひっ迫が発生する原因

電力需給のひっ迫が発生する原因は主に4つあります。

  • 想定以上の猛暑や寒波による需要拡大
  • 火力発電所の老朽化
  • 稼働中の原子力発電所の減少
  • 再生可能エネルギーの発電力の変動

想定以上の猛暑や寒波による需要拡大

電力需給のひっ迫は、主に厳しい猛暑や寒波などによって、電力需要が想定以上に高まり、需要と供給のバランスが崩れることで起こります。

例えば2022年3月には天候が大きく悪化し、10年に一度の厳しい寒さを想定した場合の最大需要をさらに約300万kW上回る極めて高い水準の見通しとなり、電⼒需給ひっ迫警報が発令されました[1]

火力発電所の老朽化

また電力供給を支える火力発電所の老朽化により、補修点検期間時の未稼働やその他トラブルによる停止のリスクが高まっていることも、電力需給のひっ迫を招く一因となっています。

例えば東京エリアの場合、運転開始後40年以上が経過した火力発電所の割合は約1割です[3]。2024年以降も、火力発電所による電力供給に一定のリスクを抱えた状況が続いています。

[3]経済産業省 資源エネルギー庁「2024年度の電⼒需給について」

稼働中の原子力発電所の減少

昼夜を問わず、一定の出力で安定的に発電できる電力源のことをベースロード電源と呼びます。火力発電所と並んで、ベースロード電源に位置づけられているのが原子力発電です。

しかし、原子力発電所は2011年の東日本大震災をきっかけに、相次いで稼働を停止してきました。2014年には、発電電力量に占める原子力発電の割合が一時0%となりました[4]。こうした火力発電所の老朽化や原子力発電の停止・減少により供給能力が低下していることも電力需給のひっ迫が起こる原因の一つとされています。

[4]経済産業省 資源エネルギー庁「2021年初頭、電力供給が大ピンチに。どうやって乗り切った?(後編)」

再生可能エネルギーの発電力の変動

水力発電や太陽光発電、風力発電などの再生可能エネルギーには、天候によって発電力が変動しやすいという特徴があります。例えば2021年の冬期には、降雨量の減少による渇水や積雪に低下伴う出水(発電所で水を出すこと)が重なった上、水力発電所の利用率が減少し、電力需要の増加に対応できなくなりました。
このように、再生可能エネルギーは電力需給のひっ迫が起きたときの供給力としては信頼性が低く、その補完として火力発電などのベースロード電源が必要不可欠です。

しかし東日本大震災以降、再生可能エネルギーの導入率が増加したことに加え、火力発電の老朽化が進んでおり、電力需給のひっ迫への対応力が低下しました。

企業として電力ひっ迫に備えた対応・対策

企業として電力ひっ迫に備えた対応・対策

電力需給のひっ迫に備えて、企業が取るべき対策は3つあります。

  • 電力需給状況を確認する
  • 節電を意識する
  • 電気料金の高騰リスクに備える

電力需給状況を確認する

電力需給のひっ迫が発生したら、まずは広域予備率を調べ、電力需給状況がどの程度切迫しているかを確認しましょう。2024年度以降は、広域予備率Web公表システム[※]において広域予備率の見通しを確認できます。その後、資源エネルギー庁によって警報や注意報が発令された場合は、すみやかに対応しましょう。

[※]広域予備率Web公表システム

節電を意識する

警報や注意報が発令されると、企業や一般家庭に対して、電力需給状況に応じた節電が要請されます。使用していない場所の照明や空調機器を停止したり、無理のない範囲で室内の温度を調整して、消費電力量を減らしましょう。

広域予備率が1%を下回る見通しの場合は、計画停電が実施される可能性があるため、資源エネルギー庁から送られる緊急速報メールの案内に従ってください。

電気料金の高騰リスクに備える

前述の通り、日頃から電力需給状況の把握や省エネ(節電)への取り組みを強化することのほかに、企業(需要家)によっては、電力ひっ迫時に市場価格に連動し電気料金が高騰するリスクを回避することも必要になります。電力需給がひっ迫した場合に備えて、自社で加入しているプラン内容の把握や他社への切り替えを検討することをお勧めします。

一般的に、電力プランには、市場価格によって電気料金が変動する市場連動制と、市場価格が電気料金に反映されにくい固定単価制の2種類があります。

市場連動制の電力プランの場合、電力需給のひっ迫が起こると、市場価格の影響を受け電気料金が高騰する可能性があります。一方、市場価格が下落局面にある時期は、固定単価制だと価格低下によるメリットを受けられません。

電力プランの中には、市場価格への連動を基本としつつ、部分的に固定単価制を選べるプランもあります。両者のいいとこ取りをした電力プランなら、電力需給がひっ迫した時期と、市場価格が低下した時期の両方に対応可能です。

【まとめ】電力ひっ迫が起こる原因を知り、できる対策に取り組もう

電力の需要と供給のバランスが崩れると、電力需給のひっ迫が起こる可能性があります。企業にとっても電力ひっ迫は事業継続等に様々な影響を与えるリスクとなります。

その為、資源エネルギー庁によって電力需給ひっ迫警報や電力需給ひっ迫注意報が発令された際には、積極的に情報を集め節電対策に協力しましょう。

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