バーチャルPPAとは?仕組みやメリット・デメリットを徹底解説
自然環境に優しい、再生可能エネルギー由来の電力(再エネ電力)を調達する方法として、バーチャルPPA(Virtual Power Purchase Agreement)が注目を集めています。電力自体は従来通り小売電気事業者から調達すればよいため、既存の電力購入契約を変更する必要がないのが特徴です。
バーチャルPPAは、電力の需要家(企業)にとってたくさんのメリットがある一方で、注意すべき点もあります。本記事では、バーチャルPPAの仕組みやメリット・デメリットを分かりやすく解説します。
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目次
バーチャルPPAの仕組みや特徴
再エネ電力を調達する方法は、敷地内に再エネ電源を設置する自家発電や、小売電気事業者の再エネ電力メニューを利用する方法、発電事業者と直接契約し、長期に渡って電力購入契約を結ぶコーポレートPPAなどの種類があります。
特にコーポレートPPAは、再エネ比率100%を目指す国際イニシアティブRE100の加盟企業のうち、約35%(2021年時点)が利用している調達方法です[1]。
そうしたコーポレートPPAの中でも、アメリカを中心として急速に拡大してきたのが、バーチャルPPAと呼ばれる手法です。ここでは、バーチャルPPAの定義や仕組みについて解説します。
[1]自然エネルギー財団「コーポレートPPA実践ガイドブック(2023年版)」
バーチャルPPAとは?
バーチャルPPAとは、コーポレートPPAの一種で、環境価値だけを発電事業者と需要家の間で取引する電力購入契約のことです[1]。なお、両者間を小売電気事業者が仲介するケースもバーチャルPPAに含まれます。
電力の需要家と発電事業者が、通常15~20年の長期に渡って電力購入契約を結ぶコーポレートPPAには、以下のような選択肢があります[1][2]。
コーポレートPPA (電力の需要家と発電事業者が結ぶ長期の電力購入契約) | オンサイトPPA (発電設備が需要家の敷地に近接しているもの) ※構内線か自営線で接続 | |
オフサイトPPA (発電設備が需要家の敷地から遠隔にあるもの) ※送配電網で接続 | フィジカルPPA (需要家が電力と環境価値をセットで購入するもの) | |
バーチャルPPA (需要家が環境価値だけを購入するもの) |
バーチャルPPAは、実際には電力の取引を行わず、再生可能エネルギーが持つ環境価値(CO2を排出しないなどの価値)だけを取引します[1]。電力と環境価値をセットで購入するフィジカルPPAと違って、需要家と発電事業者が仮想の電力購入契約を結び、環境価値だけを取引するのがバーチャルPPAの特徴です。
[2]自然エネルギー財団「コーポレートPPA日本の最新動向(2024年版)」
バーチャルPPAの仕組み
バーチャルPPAでは、電力の需要家と発電事業者が契約を結び、再エネ電力の発電コストを参考に契約価格(固定価格)を決めた上で、その市場価格との差額を需要家が負担する仕組みになっています。この差額を精算する仕組みを差金決済と言います。
環境省によると、バーチャルPPAの仕組みのイメージは以下のとおりです[3]。
- 発電事業者と電力の需要家の間で、再エネ電力の価格や、再エネ電力の購入に関する契約を締結する
- 発電事業者は発電した電力を卸電力市場または電力会社へ市場価格等で供給し、売電収入を獲得する
- 発電事業者と需要家は、1.で合意した契約価格と2.の市場価格の差金を精算し、非化石証書(環境価値)を需要家に移転する
- 需要家は小売電気事業者などから通常通りに電力を購入する
バーチャルPPAで差金決済が導入されている理由は、発電事業者の収入を安定化させ、再エネ発電事業の持続可能性を高めるためです。日本国内のバーチャルPPAでは、基本的に需要家と発電事業者の間に小売電気事業者が介在し、差額の精算に関する業務を代行したり、需要家の代わりに差額の一部を負担したりしています。
ただし、2022年4月1日以降に運転を開始した発電設備に限り、需要家が発電事業者と直接バーチャルPPAを締結できるようになりました[1]。その場合は小売電気事業者による仲介を受けられないため、需要家自らが市場価格の変動に合わせ、契約価格との差額を精算する必要があります。
[3]環境省・みずほリサーチ&テクノロジーズ「オフサイトコーポレートPPAについて(2021年3月作成・2022年3月更新版)」
バーチャルPPAのメリット
バーチャルPPAを利用するメリットは2つあります。
- 既存の電力契約をそのまま継続できる
- 再エネ電力を利用する拠点を自由に選べる
既存の電力契約をそのまま継続できる
1つ目のメリットは、バーチャルPPAを締結しても既存の電力契約には影響しないという点です。
バーチャルPPAでは、再エネ電力の環境価値のみを購入するため、既存の電力契約をそのまま継続できます。フィジカルPPAと違って、電力契約を変更する必要はありません。
例えば複数の事業所を抱える企業の場合、電力契約を一括で締結し、電気代を節約しているケースがあります。フィジカルPPAの場合、電力契約の変更によって電気代の割引を受けられなくなるリスクがありますが、バーチャルPPAの場合は影響がありません。
またビルのテナントとして入居している場合、企業側に電力契約を変更する権限がないケースもあります。そうした場合も、既存の電力契約をそのまま維持できるバーチャルPPAなら、環境価値だけを購入できるので再エネ電力として利用が可能です。
再エネ電力を利用する拠点を自由に選べる
2つ目のメリットは、再エネ電力を利用する拠点を自由に選べるという点です。
バーチャルPPAは、フィジカルPPAと違って実際に電力の供給を受けるわけではありません。電力の取引を伴わないため、どの事業所で再エネ電力を利用するかを状況に応じて選べます。
またバーチャルPPAなら、再エネ電力の環境価値を複数の事業所で分配でき、環境価値の配分量を事業所ごとに調整することも可能です。
将来、事業所を統廃合することになっても、環境価値を別の事業所に移転すれば無駄になりません。フィジカルPPAと比べて、再エネ電力の環境価値を柔軟に利用できるのがバーチャルPPAの利点です。
バーチャルPPAのデメリット
一方、バーチャルPPAにはデメリットも2つあります。
- 負担するコストが常に変動する
- 経済産業省の補助金の対象にならない
負担するコストが常に変動する
1つ目のデメリットは、市場価格に応じて、需要家が負担するコストが常に変動するという点です。
バーチャルPPAは、契約時に決めた固定価格と発電事業者が卸売市場で電力を売却する際の市場価格の差額を支払う差金決済を採用しています。その時々の市場価格によって、発電事業者に対して支払うコスト(固定価格との差額)も変動します。
しかし、市場価格を需要家側が予測するのは困難です。そのため、バーチャルPPAはフィジカルPPAなどの手法と比べて、電力調達のコストが安定しないというデメリットがあります。
例えば、市場価格が下がり続け、契約時の固定価格を下回る状態が長期化した場合、当初の想定よりもバーチャルPPAのコストが増大するケースも考えられます。
ただしバーチャルPPAの場合、実際に電力を購入する必要がないため、遠く離れた地域の発電事業者と契約を結ぶことが可能です。あらかじめ発電コストが低い(固定価格が低くなりやすい)地域の発電事業者と契約することにより、契約上のリスクを避けられます。
また価格変動リスクへの対策として、バーチャルPPAとフィードインプレミアム(FIP) を組み合わせる方法もあります。FIPとは、発電設備が認定を取得すると、発電事業者が市場価格に基づくプレミアム(補助金)を国から受け取る制度です。
プレミアムの支払い額は、市場価格が低くなると増える仕組みのため、需要家が発電事業者に支払うコストの変動を抑制する効果が期待できます。FIPの認定を取得した発電事業者とバーチャルPPAを締結することで、需要家側のコストが安定しないというデメリットの軽減が可能です。
経済産業省の補助金の対象にならない
2つ目のデメリットは、バーチャルPPAの契約を結んでも、経済産業省が実施しているオフサイトPPAの補助金の対象にはならないという点です。
経済産業省は、太陽光発電によるオフサイトPPAを対象として、設備導入費用の一部を補助する制度を2021年から開始しています[1][4]。補助金に割り当てられた予算は、2021年から2023年にかけて合計約500億円にも上ります[1]。
しかし経済産業省の補助金は、需要家に電力を供給することが要件の1つとなっているため、バーチャルPPAは制度の対象外です。経済産業省の補助金を利用したい場合は、バーチャルPPAではなくフィジカルPPAを締結しましょう。
[4]経済産業省資源エネルギー庁「令和5年度予算「需要家主導太陽光発電導入促進事業費」に係る補助事業者(執行団体)の公募について」
【まとめ】バーチャルPPAを利用して再エネ比率を高めよう
バーチャルPPAは、既存の電力契約はそのままで、再生可能エネルギーの持つ環境価値のみを取引できる仕組みです。
バーチャルPPAによって購入できる非化石証書(非FIT非化石証書)は、RE100などの国際イニシアティブへの報告にも利用できます。発電コストが安い事業者を探せば、再エネ電力の契約価格を抑えられるため、コストを抑えて再エネ電力を調達できるのもメリットです。
バーチャルPPAの仕組みについて知り、事業活動の再エネ比率を高めましょう。