バーチャルPPAとは?仕組みやフィジカルPPAとの違い、メリット・デメリットを徹底解説

2024.05.31
2025.01.10
記事をシェアする

近年、地球温暖化対策や持続可能な社会の実現に向けて、再生可能エネルギーの導入が急務とされています。企業は環境への配慮だけでなく、エネルギーコストの安定化を図るためにも、再生可能エネルギーの調達方法を模索しています。そんな中で注目を集めているのが「バーチャルPPA(Virtual Power Purchase Agreement)」です。従来のフィジカルPPAとは異なるアプローチを取り入れたバーチャルPPAは、企業に多くの利点をもたらしますが、その仕組みや導入に際しての課題も存在します。本記事では、バーチャルPPAの基本的な仕組みやフィジカルPPAとの違い、さらに企業にとってのメリット・デメリットに加え、需要家の電気料金体系や小売電気事業者との関係について詳しく解説します。

>> 【法人のお客様向け】再生可能エネルギー由来の電力を組み合わせた環境配慮型電力プラン

バーチャルPPAとは?仕組みや特徴

企業が持続可能なエネルギー調達を実現するための手段として注目されているバーチャルPPAの仕組みやフィジカルPPAとの違い、メリット・デメリット、さらに電気料金体系への影響について包括的に解説します。

バーチャルPPAの定義

バーチャルPPA(Virtual Power Purchase Agreement)は、企業が再生可能エネルギー由来の電力を間接的に調達するための契約形態の一種です。これは、コーポレートPPAと呼ばれる、発電事業者と電力の需要家が長期にわたる電力購入契約を結ぶ枠組みの中に位置づけられます。

コーポレートPPA
(電力の需要家と発電事業者が結ぶ長期の電力購入契約)
オンサイトPPA
(発電設備が需要家の敷地に近接しているもの)
※構内線か自営線で接続        
オフサイトPPA
(発電設備が需要家の敷地から遠隔にあるもの)
※送配電網で接続
フィジカルPPA
(需要家が電力と環境価値をセットで購入するもの)
バーチャルPPA
(需要家が環境価値だけを購入するもの)

 バーチャルPPAの特徴は、物理的な電力の供給ではなく、再生可能エネルギーの「環境価値」を金融的な取引を通じてやり取りする点にあります。具体的には、発電事業者と需要家が、通常15~20年の長期にわたって契約を結び、再生可能エネルギーの価格を固定します。その後、市場価格と契約価格の差額を調整することで、需要家は安定した価格で再生可能エネルギーの環境価値を取得できます。 従来のフィジカルPPAと比較して、バーチャルPPAは、物理的な電力の送配電に関する制約を受けにくく、柔軟な契約が可能である点が大きな特徴です。また、小売電気事業者が仲介する場合もあり、企業は既存の電力契約を変更することなく、再生可能エネルギーへの移行を進めることができます。

下記の記事も併せて参考にしてください。
コーポレートPPAとは?メリットや注意点を詳しく紹介
オンサイトPPAの仕組みやオフサイトPPAとの違いをわかりやすく解説
オフサイトPPAとは?フィジカルPPAの仕組みやメリット・デメリットを紹介
フィジカルPPAとは?法人顧客向けの新たな電力調達手段

バーチャルPPAの仕組み

バーチャルPPAは以下のステップで進行します:

  1. 契約締結:企業(需要家)と発電事業者が長期的な電力購入契約を締結します。ただし、実際の電力の物理的な供給は行われず、環境属性のみが取引されます。
  2. 価格設定:契約時に固定された価格(キャッシュフロー)が設定されます。この価格は市場価格の変動に対するヘッジとなります。
  3. 差金決済:発電事業者は電力を市場価格で売却しますが、需要家は契約価格と市場価格の差額を精算します。
    このように、バーチャルPPAでは、契約価格と市場価格の差額を調整する「価格調整」が行われます。市場価格が契約価格を下回る場合、企業は発電事業者に差額を支払います。逆に市場価格が契約価格を上回る場合、企業は差額を受け取ります。
  4. 環境価値の取得:企業は再エネ証書(EACs)を受け取り、自社のサステナビリティ報告などに使用します。

下表は、バーチャルPPAの基本的な仕組みを示しています。

ステップ内容
1.契約締結企業と発電事業者が長期契約を締結(電力の物理供給なし)
2.価格設定固定価格と市場価格の設定
3.差金決済契約価格と市場価格の差額を精算
4.環境価値取得再エネ証書(EACs)を取得

フィジカルPPAとの違い

フィジカルPPA(Physical PPA)は、企業が直接発電事業者から電力を購入し、物理的に電力を受け取る契約です。一方、バーチャルPPAは電力そのものではなく、価格差と環境価値のみを取引します。主な違いは以下の通りです:

比較項目フィジカルPPAバーチャルPPA
電力の物理供給ありなし
環境属性の取引セットで取引別個に取引
契約価格発電コストに基づく固定価格市場価格との差額のみ調整
リスク発電事業者の販売リスクを負う市場価格変動リスクを企業側が負う
利用可能な企業電力契約の変更が可能な企業電力契約を変更せずに
環境価値のみ購入可能

フィジカルPPAの特徴

フィジカルPPAでは、企業は特定の発電所から直接電力を購入するため、その発電所の電力供給に依存します。このため、企業は安定した電力供給を確保できる一方で、発電所の運営状況や自然災害などにより供給リスクを伴います。

バーチャルPPAの特徴

バーチャルPPAでは、物理的な電力供給がなく、金融的な取引を通じて再生可能エネルギーの環境価値を取得します。これにより、企業は既存の電力契約を維持しながら、再生可能エネルギーの導入を進めることが可能です。また、発電事業者側も複数の企業とバーチャルPPAを締結することで、再生可能エネルギーの普及を加速させることができます。

バーチャルPPAのメリット

バーチャルPPAには以下のようなメリットがあります:

既存の電力契約を維持

バーチャルPPAは電力そのものを直接購入しないため、既存の電力契約を変更せずに再生可能エネルギーの環境価値を取得できます。これにより、電力の供給元を変更する手間やリスクを回避できます。特に、大規模なエネルギー消費を行う企業にとって、既存の電力インフラや契約を維持しながら再生可能エネルギーを導入できる点は大きな利点です。

 電力価格のヘッジ

市場価格の変動に対するヘッジとして機能します。固定価格が設定されるため、電力市場の不安定な価格変動から企業を保護します。例えば、エネルギー需要が急増する季節や市場の価格が高騰する時期でも、契約価格によって安定したコスト管理が可能となります。

環境目標の達成

バーチャルPPAを通じて取得した再エネ証書(EACs)は、企業の持続可能性目標やRE100などの国際基準の達成に寄与します。また、自社のサプライチェーン全体での温室効果ガス削減に貢献できることで、企業は環境への責任を果たすことができ、ブランドイメージの向上や投資家からの評価も高まります。

柔軟なエネルギー戦略

バーチャルPPAは物理的な供給に依存しないため、地理的な制約が少なく、複数の再生可能エネルギープロジェクトに分散投資することが可能です。これにより、企業は多様なエネルギー源を活用し、リスク分散を図ることができます。

バーチャルPPAのデメリット

一方で、バーチャルPPAには以下のようなデメリットも存在します:

 コストの変動リスク

市場価格と契約価格の差額によって、企業が支払うコストが変動します。市場価格が契約価格を下回る場合、企業は発電事業者に差額を支払う必要があり、予期せぬ追加コストが発生するリスクがあります。これは、特にエネルギー価格が下落する場合に企業のコスト構造に影響を与える可能性があります。

補助金対象外

経済産業省が提供するオフサイトPPA向けの補助金対象外となるため、補助金を活用できない点が挙げられます。これにより、初期導入コストや運用コストが高くなる可能性があります。また、補助金を利用できないことで、資金調達のハードルが上がる場合もあります。

契約の複雑さ

バーチャルPPAは金融的な取引が含まれるため、契約内容が複雑になります。企業は契約書の詳細を理解し、専門的な知識を持つ人材を確保する必要があります。また、契約期間中の市場価格の変動に対する対応策を検討する必要があり、管理コストが増加する可能性があります。

環境価値の認証

取得した再エネ証書(EACs)が適切に認証され、企業の環境目標に反映されるためには、信頼性の高い認証機関との連携が必要です。不適切な認証プロセスが行われた場合、企業のサステナビリティ報告に影響を及ぼすリスクがあります。

バーチャルPPAにおける需要家の電気料金体系

バーチャルPPAの導入に際して、需要家の電気料金体系は重要な要素となります。ここでは、小売電気事業者との関係や電気料金への影響について詳しく解説します。

小売電気事業者との関係

バーチャルPPAでは、企業は従来通り小売電気事業者から電力を購買します。バーチャルPPAはあくまで金融的な取引であり、実際の電力量の購入には影響を与えません。したがって、企業は既存の電力契約を維持しながら、追加で再生可能エネルギーの環境価値を取得する形となります。 具体的には、企業は通常の電力供給契約に基づき電力を使用しつつ、バーチャルPPAを通じて再生可能エネルギーの価格固定や環境価値の取得を行います。これにより、企業は電力供給の安定性を保ちつつ、サステナビリティ目標を達成することが可能です。

電気料金の調整と影響

バーチャルPPAでは、契約価格と市場価格の差額が企業のコストに影響を与えます。以下の表に、需要家の電気料金体系とバーチャルPPAの関係をまとめました。

項目説明
基本料金契約電力に基づく固定料金。バーチャルPPAはこれに影響しない。
電力量料金使用電力量に基づく変動料金。市況価格により変動。
差金決済バーチャルPPAの契約価格と市場価格の差額を調整。
再エネ証書(EACs)環境価値の取得。持続可能性報告に使用可能。

企業は、バーチャルPPAを導入することで、基本料金と電力量料金に加えて、差金決済による追加コストや収益が発生します。このため、電力量の使用状況や市場価格の動向に応じて、総電気料金が増減する可能性があります。具体的には、以下のようなシナリオが考えられます:

  • 市場価格が契約価格を上回る場合:企業は差額を受け取るため、総コストが削減される可能性があります。
  • 市場価格が契約価格を下回る場合:企業は差額を支払う必要があるため、総コストが増加するリスクがあります。

このため、企業はバーチャルPPAの導入前に、電力使用状況や市場価格のトレンドを詳細に分析し、リスク管理策を講じることが重要です。また、長期的なエネルギー戦略の一環としてバーチャルPPAを位置づけることで、電力コストの最適化と環境目標の両立を図ることが可能となります。

【まとめ】

バーチャルPPAは、企業が既存の電力契約を維持しながら再生可能エネルギーの環境価値を取得するための有効な手段です。フィジカルPPAと比較して、物理的な電力の供給を伴わないため、契約の柔軟性が高く、既存の電力契約に影響を与えません。また、電力価格の変動リスクをヘッジしつつ、企業のサステナビリティ目標を達成することができます。

しかし、バーチャルPPAには市場価格の変動によるコストの変動リスクや、補助金対象外といったデメリットも存在します。さらに、契約の複雑さや環境価値の適切な認証が求められるため、導入に際しては慎重な検討が必要です。

バーチャルPPAを導入する際には、需要家の電気料金体系や小売電気事業者との関係を十分に理解し、効果的なエネルギー戦略を策定することが重要です。これにより、企業は持続可能性目標の達成とともに、電力コストの最適化を図ることが可能となります。

再生可能エネルギーの導入を検討する法人にとって、バーチャルPPAは強力なツールとなり得ます。市場の動向や自社の電力使用状況を踏まえ、最適なエネルギー調達方法を選択することで、環境への貢献と経済的なメリットを両立させることができるでしょう。持続可能な未来を築くために、バーチャルPPAの活用を積極的に検討してみてはいかがでしょうか。

>> 【法人のお客様向け】再生可能エネルギー由来の電力を組み合わせた環境配慮型電力プラン

記事をシェアする