オフサイトPPAとは?フィジカルPPAの仕組みやメリット・デメリットを紹介
政府は2020年10月、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロに削減することを目指す「カーボンニュートラル」を宣言しました。[1]
カーボンニュートラルを実現する上で、大量の電力を消費している産業界も積極的に取り組みを進めることが求められます。
温室効果ガスの排出量を削減するには、化石燃料に由来する電力の消費を減らし、クリーンな再生可能エネルギーを導入することが欠かせません。そのための手段として有力視されているのが、オフサイトPPAと呼ばれる電力購入契約です。
本記事では、再エネ電力の普及に取り組む丸紅新電力が、オフサイトPPAのなかでもフィジカルPPAの特徴やメリット・デメリットを詳しく解説します。
>> 【法人のお客様向け】再生可能エネルギー由来の電力を組み合わせた環境配慮型電力プラン
目次
オフサイトPPA(フィジカルPPA)とは?
オフサイトPPA(フィジカルPPA)とは、企業の敷地外(=オフサイト)に太陽光発電設備などの再エネ電源を設置し、再エネ電力を供給する仕組みです。環境省はオフサイトPPA(フィジカルPPA)を以下のとおり定義しています。
“再エネ電源の所有者である発電事業者(ディベロッパー、投資家等含む)と電力の購入者(需要家等)が、事前に合意した価格及び期間における再エネ電力の売買契約を締結し、需要地ではないオフサイトに導入された再エネ電源で発電された再エネ電力を、一般の電力系統を介して当該電力の購入者へ供給する契約方式。”[2]
オフサイトPPAは、正式名称を「オフサイトコーポレートPPA」と言います。コーポレートPPA(Power Purchase Agreement)とは、企業向けの電力購入契約の一種で、「企業や自治体が発電事業者および小売電気事業者から再エネ電力を長期的に(通常10~20年)購入する契約」のことです。[3]
コーポレートPPAを利用することで、再エネ電力を長期的に安定した価格で調達することが可能です。そのため、環境に配慮した脱炭素経営を目指す企業や、自社の電力を100%再エネに置き換えるRE100への加盟を目指す企業を中心として、コーポレートPPAの有用性が注目されてきました。例えば、RE100加盟企業のデータを見ると、2021年に調達された再エネ電力のうち、35%がコーポレートPPAに由来するものです。[4]
[2]環境省「オフサイトコーポレートPPAについて」
[3]公益財団法人 自然エネルギー財団「コーポレートPPA実践ガイドブック」
[4]公益財団法人 自然エネルギー財団「自然エネルギーの電力を増やす 企業・自治体向け電力調達ガイドブック第7版(2024年版)」
オフサイトPPAとオンサイトPPAとの違い
コーポレートPPAには、オフサイトPPAの他に「オンサイトPPA」という仕組みもあります。オンサイトPPAとオフサイトPPAの違いは以下のとおりです。
コーポレートPPA | 特徴 |
オンサイトPPA | ● 需要拠点の敷地内に再エネ電源設備を設置する ● 設置場所が敷地内のため、発電量が限られる |
オフサイトPPA (フィジカルPPA) | ● 需要拠点の敷地外に再エネ電源設備を設置する ● 設置場所が敷地外のため、発電量を確保できる |
需要場所の敷地外に再エネ電源を設置するオフサイトPPA(フィジカルPPA)に対し、オンサイトPPAでは工場やビルの屋根など、敷地内の余剰スペースを活用して再エネ電力を発電します。
フィジカルPPAにおける発電から供給までの流れ
フィジカルPPAの発電から供給までの流れを確認しておきましょう。一般的にフィジカルPPAを導入した場合、以下の流れで再エネ電力が供給されます。
- 発電事業者が、需要地点の敷地外に太陽光発電設備などの再エネ電源を設置する
- 発電された再エネ電力を小売電気事業者が一般送配電事業者の送電線を利用して、再エネ電力を需要家に供給する
ただし、2021年に電気事業法施行規則が一部改正され、自己託送の定義の拡大によって発電事業者から直接再エネ電力の供給を受けることが条件付きで認められました。[2][5]
[5]経済産業省 資源エネルギー庁「自己託送に関するQ&A」
コーポレートPPAを導入するメリットや、オンサイトPPAの仕組みとオフサイトPPAとの違いについて詳しく知りたい方は、【コーポレートPPAとは?メリットや注意点を詳しく紹介】や【オンサイトPPAの特徴やオフサイトPPAとの違いをわかりやすく解説】、【バーチャルPPAとは?仕組みやメリット・デメリットを徹底解説】をご覧ください。
フィジカルPPAと自己託送の違い
フィジカルPPAとよく似た電力供給の仕組みとして、自己託送制度があります。
自己託送とは?
自己託送とは、“一般送配電事業者が保有する送配電ネットワークを使用して、工場等に自家用発電設備を保有する需要家が当該発電設備を用いて発電した電気を、別の場所にある当該需要家や当該需要家と密接な関係性を有する者の工場等の需要地に送電する制度”です。[6]
自己託送における電気の流れは以下のとおりです。[6]
- 需要家の保有する自家用発電設備で発電
- 一般送配電事業者が保有する送配電ネットワークを使用し送電
- 別の場所にある当該需要家や当該需要家と密接な関係性を有する者の工場等で電力を使用
言い換えれば、自己託送は自家用発電設備を使って電気を自分で発電し、自分で消費する、「自家発電自家消費」の延長線上にある仕組みです。自己託送は、東日本大震災後の電力需給のひっ迫を受けて、需要家が保有する発電設備の余剰電力を有効活用するという観点から制度化されました。[6]
[6]経済産業省 資源エネルギー庁「再エネ導入の拡大に向けた今後の自己託送制度の在り方について」
フィジカルPPAと自己託送の違い
自己託送はフィジカルPPAと同様に、太陽光発電設備などの再エネ電源を敷地外に設置し、送配電ネットワークを介して需要拠点に電気を送ることも可能な方式ですが、再エネ電源を保有するのが需要家自身又は需要家と密接な関係性を有する者(資本関係があること等)、または組合を設立し一定の要件を満たすことで密接な関係を持つとみなされる者に限られるという点が異なります。[5]
フィジカルPPAのメリット
フィジカルPPAを利用するメリットは以下の5点です。
- 敷地の広さや条件に関わらず導入できる
- 初期費用を抑えられる
- メンテナンス費用が掛からない
- CO2の排出量を削減できる
- 電力の価格変動リスクを軽減できる
敷地の広さや条件に関わらず導入できる
1つ目のメリットは、発電設備を需要拠点の敷地外に設置するため、敷地の広さや条件に関わらず導入できる点です。
フィジカルPPAを含むコーポレートPPAでは、主に太陽光発電設備が設置・導入されています。しかし、太陽光発電設備を設置するには、敷地に十分なスペースがあるか、日照量が十分か等の要件を満たす必要があります。
また、たとえ小規模であっても、太陽光発電設備の設置は周囲の環境に与える影響が大きく、さまざまな要件に配慮し、対策を講じなければなりません。[7]
設置条件 | 内容 |
土地の安定性 | 設置場所(自然斜面や、切土・盛土を含む土地造成を行う場合)に崩壊などの恐れがないか |
濁水 | 降雨時に濁水が設置場所の外に流れ出たり、河川等に排水する場合、水の濁りが問題になる可能性はないか |
騒音 | パワーコンディショナー等から発生する騒音が問題となる可能性はないか |
反射光 | 太陽光パネルによる反射光がまぶしいとして、近隣の住宅や学校、病院などから苦情が入る恐れはないか |
工事に関する粉じん等、騒音・振動 | 設置工事に当たって、粉じん等(土ぼこりなど)や騒音・振動が発生し、近隣住民に影響を与えないか |
景観 | 太陽光発電設備の設置によって、良好な景観が変わったり、見えなくなる可能性がないか |
動物・植物・生態系 | 重要な動植物が生息・生育する場所が、消失・縮小する恐れはないか |
自然との触れ合いの活動の場 | 自然との触れ合いの活動の場が消失・縮小したり、快適性・利用性に影響を及ぼす可能性はないか |
フィジカルPPAなら、自社の需要拠点がこれらの要件を満たしていなくても、要件を満たす敷地外に太陽光発電設備を設置し、必要な電力を補うことが可能です。
[7]環境省「太陽光発電の環境配慮ガイドラインチェックシート」
初期費用を抑えられる
利用者にとってのもう1つのメリットは、自社で再エネ電源を用意する場合と比べて、初期費用を抑えられる点です。フィジカルPPAの場合、太陽光発電設備の設置費用は発電事業者負担となります。
資源エネルギー庁が公表した、2022年に設置された事業用太陽光発電の平均コストは以下の表のとおりです。単価は(資本費+運転維持費)/発電電力量で算出されています。
太陽光発電設備(パネル)の設置だけで、発電量1kWあたり平均10.1万円のコストが発生します。そのため、フィジカルPPAの設置費用が発電事業者負担となる点は魅力的です。[8]
項目 | 単価 |
パネル | 10.1万円/kW |
パワコン・架台等 | 6.3万円/kW |
工事費 | 7.9万円/kW |
土地造成費 | 1.3万円/kW |
接続費 | 1.6万円/kW |
[8]経済産業省 資源エネルギー庁「太陽光発電について(2023年12月)」
メンテナンス費用が掛からない
また、フィジカルPPAの場合、太陽光発電設備などのメンテナンス費用が掛かりません。契約期間中は発電事業者が再エネ電源のメンテナンスを実施し、管理に必要な費用も負担します。自社負担で再エネ電源を設置するよりも、初期費用・月額費用を大きく節約することが可能です。
CO2の排出量を削減できる
フィジカルPPAで取り扱うのは、太陽光、風力、小水力、バイオマスなどの再生可能エネルギーです。これまで利用していた電力を再エネ電力に置き換えることで、二酸化炭素をはじめとした温室効果ガスの排出量を削減できます。
まとまった量の再エネ電力を調達し、既存の電力を再エネ電力に置き換えられる点から、再エネ100%を目指すRE100に加盟する企業からも注目が集まっています。
電力の価格変動リスクを軽減できる
フィジカルPPAでは、契約期間を通じて固定価格(託送料金や再エネ賦課金等の変動を除く)で電力供給を受けられるため、電気料金の変動リスクを軽減できます。石油や石炭、天然ガスなどの燃料価格の高騰や、卸電力市場における取引価格の影響を受けず、将来にわたって安定した価格で再エネ電力を調達できるのがフィジカルPPAの強みです。[9]
[9]2021年3月作成・2022年3月更新版 環境省・みずほリサーチ&テクノロジーズ 「オフサイトコーポレートPPAについて」
フィジカルPPAのデメリット
一方、フィジカルPPAにはデメリットもあります。[3]
- 長期契約が必要となる
- 非常用電源として活用できない
- 託送料金・再エネ賦課金が発生する
長期契約が必要となる
先述したように、フィジカルPPAの契約期間は10~20年と長期です。「まとまった量の再エネ電力を安定して調達できる」「再エネ電力の調達価格を固定し、将来の価格変動リスクをヘッジできる」といったメリットがある一方で、以下のような問題点もあります。
- 再エネ電力の将来の市場価格の見通しが不明
- 契約期間中に拠点の移転や閉鎖が決定した場合、違約金を支払う可能性がある
そのため、フィジカルPPAを利用する際は、あらかじめ中長期的な再生可能エネルギーの調達計画を立て、将来発生しうるリスクとその対処法を決めておく必要があります。
非常用電源として活用できない
フィジカルPPAは非常用電源として活用することができません。フィジカルPPAはオンサイトPPAと違って、遠隔地に再エネ電源設備を設置し、発電した電力は送電線を使って供給しているため、非常電源としては使用できません。
託送料金・再エネ賦課金が発生する
また、フィジカルPPAの場合、託送料金や、再生可能エネルギー発電促進賦課金(=再エネ賦課金)が発生することも知っておきましょう。再エネ賦課金とは、地球温暖化対策、エネルギー安全保障の強化、経済成長、国際貢献など、様々な課題解決のために再生可能エネルギーの普及を促進する重要な制度です。オンサイトPPAは再エネ賦課金の対象外ですが、フィジカルPPAは通常の送電線を使って電力を供給する為、再エネ賦課金の徴収対象となります。
【まとめ】再生可能エネルギーへの移行ならフィジカルPPAを活用しよう!
フィジカルPPAを締結することで、太陽光や風力などの再エネ電力を長期的に安定して調達できます。再エネ電源を設置するコストやメンテナンス費用も掛かりません。また再エネ電源は敷地外の遠隔地に設置されるため、敷地面積が小さい企業でも導入可能です。
SBTやRE100、再エネ100宣言など、脱炭素に向けたイニシアティブへの参加を目指す企業は、フィジカルPPAを活用することがおすすめです。