SAF(持続可能な航空燃料)とは?2030年目標に向けた日本の戦略と課題、企業の取り組みを徹底解説
航空業界は今、大きな転換期を迎えています。世界的なカーボンニュートラルの流れの中で、排出される温室効果ガス(GHG)の削減は避けて通れない課題です。その切り札として期待されているのが「SAF(持続可能な航空燃料)」です。従来のジェット燃料に代わる存在として、日本政府も強力な支援策を打ち出しており、2030年に向けた具体的な数値目標も設定されています。本記事では、SAFの基礎知識から、最新のエネルギー基本計画に基づく政府の戦略、そして企業の動向までを詳しく解説します。
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目次
SAF(持続可能な航空燃料)とは?

SAFの定義と従来の燃料との違い
SAF(Sustainable Aviation Fuel)とは、廃食油、動植物油脂、木質バイオマス、都市廃棄物などを持続可能な資源を原料として製造される航空燃料のことです。従来のジェット燃料は化石燃料(原油)を精製するため、使用すると大気中の二酸化炭素(CO2)を純増させてしまいます。
一方、SAFはすでに地上に存在する植物や廃棄物などの持続可能な資源を原料とするため、「原料の生産・収集から、製造、輸送、そして航空機での燃焼に至る全過程(ライフサイクル)」において、化石燃料よりもCO2排出量を大幅に削減(一般的に約80%以上削減)できるという特徴を持っています。これにより、航空部門におけるカーボンニュートラルの実現に向けた切り札として期待されています。
SAFの最大の特徴は、既存の航空機エンジンや給油インフラをそのまま活用できる点にあります。これを「ドロップイン燃料」と呼び、大規模な設備改修を必要とせずに導入できることが、航空業界の脱炭素化において極めて重要なポイントとなっています。
現在は安全基準に基づき、従来のジェット燃料と最大50%までの比率で混合(ブレンド)して供給・使用されていますが、将来的には100%SAFでの飛行に向けた技術開発や規格改定も進められています。
主な原料と製造技術の種類
SAFの原料は多岐にわたります。現在、実用化が進んでいるものから研究段階のものまで、以下のような分類が可能です。
| 原料区分 | 主な具体例 | 特徴 |
|---|---|---|
| 油脂類 | 廃食油、獣脂、菜種油など | 現在主流の原料。HEFA法により製造される。 |
| バイオマス類 | 木質資源、サトウキビ、トウモロコシ | 食料競合を避けるため、今後は非可食原料の活用が期待される。 |
| 都市廃棄物 | 家庭ゴミ、産業廃棄物の可燃分 | 廃棄物処理と燃料製造を同時に行える。 |
| CO2・水素 | 工場排ガスや大気中から回収したCO2と再生エネ由来の水素 | 合成燃料(e-SAF)」と呼ばれ、原材料の制約が少なく、将来が期待されている。 |
なぜ今、SAFが求められているのか

航空分野における脱炭素化の緊急性
自動車分野では電気自動車(EV)へのシフトが進んでいますが、航空機、特に長距離国際線においては、バッテリーの重量やエネルギー密度の観点から電動化が困難です。そのため、液体燃料を維持しつつ脱炭素化を図るSAFの導入が、航空分野におけるGHG排出削減の主要な手段とされています。
日本政府の「GX基本方針」においても、「2030年までに本邦航空会社による燃料使用量の10%をSAFに置き換える」という高い目標を掲げており、石油元売事業者への供給義務化などの制度設計を進めています。この目標達成に向け、国際競争力のある価格で安定的に供給できる体制の構築が急務となっています 。
LCA(ライフサイクルアセスメント)の重要性
SAFの価値を測る上で欠かせないのが、LCA(ライフサイクルアセスメント)の視点です。これは、燃料の原料採取から、製造、輸送、そして最終的な燃焼に至るまでの全過程で排出されるGHG(温室効果ガス)を総合的に評価する手法です 。 航空機のエンジンからSAFを燃焼させた際に出るCO2の量自体は、従来のジェット燃料とほぼ変わりません。
しかし、SAFは地上にあるバイオマスや廃棄物を原料とするため、「燃焼時のCO2排出は、地上の炭素循環の一部(大気中のCO2を純増させない)」とみなされます。そのため、LCA評価においては、原料の収集・加工や輸送など「燃焼以外の段階」で発生する排出量をいかに抑えるかが、燃料全体のクリーンさを決める極めて重要な要素となります。
日本政府のSAF導入目標と支援制度

2030年に向けた供給目標量
日本政府は、2030年におけるSAF(持続可能な航空燃料)の供給目標と規制について、具体的な制度設計を進めています。先述したように「GX基本方針」等においては、2030年までに本邦航空会社による燃料使用量の10%をSAFに置き換える目標が掲げられており、これを受けてエネルギー供給構造高度化法に基づき、大手の航空燃料供給事業者(石油元売り等)に対して2030年度から供給を義務付ける方針が示されました。
具体的な供給義務量は、主要空港の国際線を対象に、2030年度の1%以上から開始し、段階的に5%以上へと引き上げる設計となっています。この義務化や並行して検討されている利用者へのコスト負担制度により、中長期的な投資と需給創出を促す仕組みの法制化が進められています。
背景には、国内のガソリン需要が減少する一方で、インバウンドの増加に伴い国際線を中心とした航空燃料需要が底堅く推移している現状があります。目標達成に向け、国際競争力のある価格で安定的に供給できる体制の構築を含めた、航空燃料の脱炭素化と安定確保はエネルギー政策上の重要課題となっています。
GX経済移行債と税制による先行投資支援
SAFの製造設備は大規模な投資を必要とするため、政府は投資・精算の両面から財政支援を行っています。
- GX経済移行債の活用(投資フェーズへの支援): 脱炭素成長型経済構造移行債(GX経済移行債)を財源とした政府補助金を交付し、石油元売り大手などが進める国内の大規模なSAF製造設備の構築や、既存プラントの改造に係る設備投資費用を直接助成しています。
- 戦略分野国内生産促進税制(生産・販売フェーズへの支援): 生産段階でのコスト高や投資リスクを軽減するため、経済産業省は「戦略分野国内生産促進税制」を創設しました。SAFを対象物資に指定し、設備投資時点の減税だけでなく、稼働後の生産・販売量に応じた税額控除を10年間にわたり措置しています。
※詳細は経済産業省 戦略分野国内生産促進税制ページをご確認ください。
これらの多角的な支援により、日本国内でのSAF製造基盤の早期確立を促し、海外からの輸入依存を減らすことで、経済・エネルギー安全保障の強化も図られています。
AF普及に向けた課題と解決策

原料の争奪戦とサプライチェーンの構築
SAFの普及における最大の実務的課題は、原料の安定確保です。現在、商用化が進む主要な製造方式(HEFA法)では廃食油(UCO)が主原料ですが、世界的な需要急増に伴う価格高騰や、各国による国内資源の囲い込み(輸出規制等)により、将来的な調達難や海外への原料流出が懸念されています。
この課題に対し、政府は以下の対策を推進しています。
- 原料の多角化(非可食資源の開拓):食料生産と競合しない、木質バイオマスや都市ゴミ、あるいはマメ科の非可食植物(ボンガミア等)などからSAFを製造する技術(Alcohol-to-Jet法等)の確立と原料開拓。
- サプライチェーンの強化と国内循環:国内における家庭・事業系廃食油の回収網構築(トレーサビリティの確保)を支援するほか、アジア圏等での安定的な原料調達ネットワークの構築
- バイオものづくりとの連携:経済産業省のグリーンイノベーション基金等を通じて、微生物や細胞設計プラットフォームを活用した、新たなプロセスによる燃料生産の研究開発 。
合成燃料(e-SAF)への期待と商用化の展望
バイオ原料の供給制約を克服する次世代技術として期待されているのが「合成燃料(e-fuel)」の一種である「e-SAF」です。これは、再生可能エネルギー由来の電力で製造した水素(グリーン水素等)と、大気中や工場排ガス等から回収したCO2を化学合成して製造される人口の燃料です。
合成燃料は、従来の化石燃料と同等の高いエネルギー密度を有しており、既存の航空機(内燃機関)や給油設備、燃料インフラをそのまま活用できる(=ドロップイン性が高い)大きなメリットがあります 。
政府は国際的な規制強化を見据えて商用化目標を前倒しし、2030年代前半までのe-SAF商用化(供給開始)を目指しています。この目標達成に向け、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)のグリーンイノベーション基金などを活用し、国内製油所等における大規模な実証プラントの建設や、製造効率を高める触媒技術の開発・実証事業を加速させています。
企業の取り組みと国際的な枠組み

SBT(Science Based Targets)と航空各社のコミットメント
気候変動対策の国際的な枠組みとして、企業がパリ協定の目標に基づいた排出削減目標を設定する「SBT(Science Based Targets)」の認定が普及しています。航空業界においても、多くの海外主要企業が自社の運航(Scope 1)および燃料の調達・製造プロセス(Scope 3)を含めた中長期的な排出強度削減目標を設定し、SBTiによる科学的根拠の検証を受けています。
例えば、デルタ航空、ユナイテッド航空、ルフトハンザグループ、ブリティッシュ・エアウェイズを擁するIAG(インターナショナル・エアラインズ・グループ)などのグローバル大手航空会社は、SAFの導入を気候変動戦略の柱に据えています 。
これらの企業は、燃料生産企業との間で数億リットル規模に及ぶ「長期引取契約(オフテイク契約)」を相次いで締結しています。供給側に対して将来の確実な需要を保証(デリスク)することにより、民間資金の流入とSAF製造プラントの建設を促し、国際的なSAF市場の立ち上げを事実上牽引しています。
物流・空港サービスにおける脱炭素化
- 航空分野を包含する物流サプライチェーンや空港インフラ全体において、多様なアプローチによる脱炭素化の取り組みが推進されています。空港施設の役割と給油体制整備
- 国土交通省の「航空分野の脱炭素化推進計画」に基づき、主要空港において太陽光発電等の導入による「空港の再生可能エネルギー拠点化」が進められています。同時に、SAFの安定的な受け入れと効率的な機体への給油に向け、空港内の燃料ハイドラント配管の活用や受入・給油体制のワンストップ化に向けたインフラ整備が進められています。国際物流・航空貨物におけるSAF利用促進
- DHLやDSV、Maerskなどの国際物流大手もSBTは、SBTiの基準に則った削減目標を掲げています。これらの企業は、燃料の物理的な移動を伴わずに環境価値のみを取引する「Book & Claim」の仕組みを活用し、荷主企業のScope 3(間接排出量)削減ニーズに対応した環境配慮型輸送サービスを提供することで、航空貨物分野におけるSAF需要を創出しています。総合的なモーダルシフトの推進
航空だけでなく運輸・物流部門全体の排出量削減に向け、政府の「物流革新に向けた政策パッケージ」等に基づき、トラック輸送からCO2排出強度の低い鉄道や内航船舶への転換(モーダルシフト)、および「ダブル連結トラック」の活用による輸送効率化が推進されています。空港や物流拠点を結ぶ陸上・海上輸送の脱炭素化を組み合わせることで、サプライチェーン全体の排出削減を図っています。
【まとめ】持続可能な空の旅の実現に向けて

SAF(持続可能な航空燃料)は、航空業界が2050年カーボンニュートラルを実現するために欠かせない選択肢と言っても過言ではありません。
日本政府は2030年における本邦航空会社の燃料使用量の10%をSAFに置き換える目標を定め、GX経済移行債や税制優遇を通じて国内の製造基盤整備をバックアップしています。今後は、バイオ原料の安定確保に向けたサプライチェーンの構築に加え、2030年代前半の商用化を目指す「e-SAF(合成燃料)」の技術確立が鍵となります。
企業にとっても、SBTなどの国際基準への対応や、SAFを活用したグリーントランスフォーメーション(GX)への参画は、持続可能な経営を行う上で不可欠な要素となっています。SAFを巡る動きは今後さらに加速することが予想されるため、最新の政策動向や技術開発の進展を注視していく必要があります。
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