スコープ3排出量とは?算定カテゴリーやGHGプロトコル改定の最新動向を徹底解説

2026.05.26
2026.07.08
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持続可能な企業経営において、気候変動への取り組みがますます重要なテーマとなる中、自社のみならずサプライチェーン全体の温室効果ガス(GHG)排出量を把握する「スコープ3(Scope 3)」への対応が急務となっています。特に現在、GHG排出量算定の世界基準である「GHGプロトコル」の大規模な改定作業が進められており、これまで任意とされていた算定項目が義務化に向けて議論されるなど、実務面でも大きな転換点を迎えています。

本記事では、スコープ3排出量の基礎知識から、15のカテゴリー分類、最新の改定動向、そして具体的な削減手法について、最新の資料に基づき詳しく解説します。

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スコープ3排出量とは?

 スコープ1・2との違いとサプライチェーン排出量の定義

温室効果ガス排出量の算定・報告は、国際的な基準である「GHGプロトコル」に基づき、スコープ1、2、3の3つの範囲に区分されます。

  • スコープ1(直接排出):事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼や工業プロセス)
  • スコープ2(間接排出):他社から供給された電気、熱、蒸気の使用に伴う排出。
  • スコープ3(その他の間接排出):自社の活動に関連する他社の排出(サプライチェーンの上流および下流)。

これら3つを合計したものが「サプライチェーン排出量」と呼ばれます。多くの企業において、スコープ3は全排出量の大部分を占めており、真の脱炭素化を実現するためには、自社内だけでなく取引先や製品の使用段階までを含めた管理が不可欠です。

15のカテゴリー分類と算定範囲

スコープ3は、その活動内容に応じて15のカテゴリーに分類されています。

区分カテゴリー該当する活動例
上流1. 購入した製品・サービス原材料の調達、パッケージングの外部委託
2. 資本財生産設備の建設
3. Scope1,2 に含まれない燃料及びエネルギー関連活動調達している燃料/電力の上流工程(採掘、精製等/発電に使用する燃料の採掘、精製等)
4. 輸送・配送(上流)自社が荷主の調達物流、横持物流、出荷物流
5. 事業から出る廃棄物廃棄物の処理・リサイクル
6. 出張従業員の宿泊・移動
7. 雇用者の通勤従業員の通勤、リモートワーク
8. リース資産(上流)自社が賃借しているリース資産の稼働
下流9. 輸送・配送(下流)販売した製品の輸送・配送、倉庫保管
10. 販売した製品の加工事業者による中間製品の加工
11. 販売した製品の使用家電の使用電力、自動車の燃料燃焼など使用者による製品の使用
12. 販売した製品の廃棄使用済み製品の廃棄・リサイクルなど製品の廃棄時の処理
13. リース資産(下流)自社が賃貸事業者として所有し、他者に賃貸している資産の稼働
14. フランチャイズ自社が主宰するフランチャイズ加盟店のScope1,2に該当する活動
15. 投資株式投資、債券投資、プロジェクトファイナンスなどの運用

さらに、従来の15カテゴリーに含まれない活動を「その他」として任意の算定・情報提供するためのカテゴリーも存在します。

 GHGプロトコル改定の最新動向と「義務化」の方向性

 改定スケジュールとフェーズ別の議論

現在、GHGプロトコルは20年ぶりの大規模な改定プロセスの中にあります。2024年から本格的な検討が開始されており、改訂版は2027年を目途に最終化される見通しです(※一部2028年末に最終化予定のものもあります。)そのため、企業は今からその準備を進める必要があります。

改定の議論は「コーポレート基準」「スコープ2」「スコープ3」「AMI(行動とマーケット手段)」の4つの専門作業部会(TWG)で行われています。

カテゴリー5・6・7の算定義務化と実務への影響

今回の改定案で最も注目すべきは、一部のカテゴリーにおいて算定が「任意(optional)」から「義務(shall)」へ格上げする議論が行われている点です[2]。

  • カテゴリー5(廃棄物): 廃棄物処理施設への「輸送」に伴う排出量の算定が必須となる見込みです。
  • カテゴリー6(出張): 出張者の「宿泊」に伴う排出量の算定が義務化される方向で議論されています。
  • カテゴリー7(通勤): 「リモートワーク(在宅勤務)」に伴う追加的な排出量(エアコンの使用など)の算定が必須となる可能性があります。

これにより、企業は従業員の働き方や宿泊実態、廃棄物業者の運搬ルートなど、より詳細な活動データを社内で収集・保管する体制を整えなければなりません。

 スコープ3削減に取り組むメリットと各種フレームワーク

SBT(Science Based Targets)認定による評価向上

スコープ3の削減目標を設定する際、多くの企業が指標とするのが「SBT」です。これはパリ協定が求める「1.5℃水準」に整合した科学的根拠に基づく目標です。

SBT認定を取得することには、以下のような多大なメリットがあります[4]。

  1. 投資家へのアピール:SBT認定は、企業の気候変動対応が科学的根拠に基づいていることを示す材料となり、CDPなどの外部評価や投資家との対話において、企業の信頼性向上に寄与します。
  2. 顧客対応:大手企業がサプライヤーに対しSBT目標の設定を求めるケースが増えており、受注機会の維持・拡大につながります。
  3. イノベーションの促進:野心的な目標を掲げることで、社内での技術革新や業務効率化の機運が高まります。

グリーンファイナンスを通じた資金調達の優位性

脱炭素への取り組みは、資金調達の面でも有利に働きます。「グリーンボンド」や「サステナビリティ・リンク・ローン」などのサステナブルファイナンス市場が急速に拡大しています。

特に、あらかじめ設定したサステナビリティ目標(SPT)の達成状況に応じて利率が変動する「サステナビリティ・リンク・ローン」は、スコープ3削減を目標に組み込むことで、目標達成状況に応じて金利条件が変動する設計が可能となり、脱炭素への取り組みを資金調達戦略と結び付けることができます。

スコープ3排出量を削減するための具体的な対策

再生可能エネルギーの調達(PPAと証書の活用)

スコープ3、特にカテゴリー1(購入した製品・サービス)を削減するには、自社のみならずサプライヤーの電力脱炭素化を支援することが不可欠です。

近年、日本でも「コーポレートPPA(電力購入契約)」が普及しています。これは、特定の再生可能エネルギー発電所から長期・固定価格で電力を調達する仕組みです。

  • オンサイト PPA:託送料金は原則不要、再エネ賦課金は課される。自家消費型で初期投資不要が一般的。
  • オフサイト PPA(フィジカル):電力を系統経由で供給。託送料金・再エネ賦課金が発生し、大規模調達が可能
  • オフサイト PPA(バーチャル):電力は調達せず環境価値のみ取得。価格差精算で再エネ価値を確保

また、24時間365日、すべての時間帯でカーボンフリー電力を利用する「24/7カーボンフリー」というコンセプトも注目されており、より高度な電力調達が求められるようになっています。

サプライヤーエンゲージメントと一次データの収集

スコープ3削減の最大の難所は、他社の排出量をいかにコントロールするかです。
SBT認定企業の中では「サプライヤーエンゲージメント目標」を設定し、主要な取引先に対してSBT認定の取得や再エネ導入を働きかける動きが広がっています。また、算定精度を上げるために、金額ベースの推計を卒業し、サプライヤーから実際のエネルギー使用量に基づいた「一次データ」を回収するプラットフォームの構築が進んでいます。

GX2040ビジョンとCCS(炭素回収・貯留)の活用

政府が掲げる「GX2040ビジョン」では、CO2の排出が避けられない分野への排出抑制対策として、CCS(Carbon dioxide Capture and Storage:二酸化炭素回収・貯留)の導入を推進しています。

2024 年に成立した「CCS 事業法」により、CO2 を地下に安定的に貯留する事業の法的枠組みが整備されました。これにより、製造プロセスで排出される CO2 を回収・貯留することで、自社の Scope 1 排出量の削減に加え、サプライヤー側で導入された場合にはカテゴリー1(購入した製品・サービス)の排出削減にもつながる可能性があります。

さらに、販売した製品を使用する顧客側で CCS が活用された場合、カテゴリー11(販売した製品の使用)の排出削減に寄与することも期待されます。(※カテゴリー11 における削減効果の算定にあたっては、顧客側の Scope 1 削減分との二重計上(ダブルカウント)を防ぐため、GHG プロトコル等の算定ルールに基づき適切に整理・検討する必要があります。)

 【まとめ】最新基準を考慮し、戦略的なスコープ3対応を進めよう

スコープ3排出量の算定・削減は単なる「環境貢献」にとどまらず、企業の持続的な成長に向けた重要なテーマとなりつつあります。GHGプロトコルの改定により、算定範囲の拡大とデータ精度の向上が厳格に求められるようになる中、企業には以下のような対応が推奨されます。

  1. バウンダリの再確認:財務報告や事業実態との整合性を意識しながら、Scope 1・2・3の算定範囲を明確化し、重要性の高いScope 3カテゴリーから順次カバー率とデータ精度を高める体制を整える。
  2. 算定の義務化への準備:カテゴリー5の廃棄物輸送、カテゴリー6の出張、カテゴリー7の通勤・在宅勤務関連など、Scope 3算定で実務上の把握が必要になりやすい活動について、早期にデータ収集体制を整える。
  3. 再エネ調達の高度化:オンサイトPPA・オフサイトPPA・再エネ電力メニュー・証書などを組み合わせ、自社のScope 2削減に加えて、サプライヤーの電力脱炭素化を促す取り組みを検討する。
  4. 外部評価の活用:SBT認定の取得やグリーンファイナンスの活用を通じて、脱炭素への取り組みを脱炭素への取り組みをステークホルダーに分かりやすく示し、外部評価や投資家・金融機関との対話に活かす。

サプライチェーン全体の脱炭素化は一朝一夕には成し遂げられません。しかし、最新の国際基準や政府のGX支援策をいち早く取り入れ、戦略的に取り組むことで、気候変動リスクを競争優位性へと転換させることが可能となります。

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