カーボンクレジットとは?仕組みや価格、企業のデメリットを紹介
2020年10月菅首相(当時)が「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言しました[1]。この目標を実現するための手段の一つがカーボンクレジットの仕組みです。
本記事では、カーボンクレジットの仕組みや、企業がカーボンクレジットを利用するメリット・デメリットについて紹介します。
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目次
カーボンクレジットとは?
カーボンクレジットとは、炭素クレジットとも呼ばれ、ボイラーの更新や太陽光発電設備の導入、森林管理等のプロジェクト等を対象に、そのプロジェクトにより実現した排出削減または炭素吸収・除去の量に関し、測定・報告・検証を経て認証し、国や企業等の間で取引可能にしたものを指します[1]。
カーボンクレジットとカーボンオフセットの違い
カーボンクレジットとよく似た言葉として、「カーボンオフセット」があります。カーボンオフセットとは、“日常生活や経済活動において避けることができないCO2等の温室効果ガスの排出について、まずできるだけ排出量が減るよう削減努力を行い、どうしても排出される温室効果ガスについて、排出量に見合った温室効果ガスの削減活動に投資すること等により、排出される温室効果ガスを埋め合わせる”考え方を指します[2]。
例を用いて2つの違いを説明します。
企業は省エネや再エネ活用といった取り組みを通じて、CO2の排出を削減すると、所定の手続きを経てカーボンクレジットの認証を受け、相対取引等(売り手と買い手が直接取引すること)で排出削減量分を売却することが可能です。
一方、カーボンクレジットを購入した企業は、自社のCO2排出量を購入した排出削減量分のクレジットで相殺することが可能です。このように購入したカーボンクレジットで自社の排出分を埋め合わせる仕組みをカーボンオフセット と呼びます。
[2]環境省「J-クレジット制度及びカーボン・オフセットについて」
カーボンクレジットの仕組み
カーボンクレジットには、ベースライン&クレジットとキャップ&トレードという2つの仕組みがあります。
ベースライン&クレジットとは、“排出量見通し(ベースライン)に対し、実際の排出量が下回った場合、その差分に対してMRV(モニタリング・レポート・検証)を行い、クレジットとして認証する”仕組みです[3]。
例えば、ボイラーの設備更新を例に挙げてみましょう。従来型の低効率ボイラーのCO2見込み排出量をベースラインとし、新たに導入した高効率ボイラーの実際の排出量が見込み排出量を下回った場合、その排出削減量(t-CO2)は所定の手続きを経て、取引可能なカーボンクレジットとして認証されます。
キャップ&トレードとは、“特定の組織や施設からの排出量に対し、一定量の排出枠を設定し、実排出量が排出枠を超過した場合、排出枠以下に抑えた企業から超過分の排出権を購入する仕組み”を指します[1]。日本では、東京都や埼玉県など、公的機関において導入されています(2024年時点)。
民間企業では、前者のベースライン&クレジットによってカーボンクレジットの取引を行うことが一般的です。なぜなら、ベースライン&クレジットは需要家の自主的な取組みを後押しする側面を持つ一方、一般的にキャップ&トレードは政府等による規制的側面を持つことが大きな特徴であり、対象は多排出産業等の特定業種やセクターに限定して実施されることが多いためです。[1]
カーボンクレジットと非化石証書等との違い
カーボンクレジットとよく似た概念に、非化石証書をはじめとした「証書」が挙げられます。経済産業省によると、証書とは“再生可能エネルギー(再エネ)由来の電力量・熱量をkWhやkJ単位で認証するもの”です[3]。
CO2の排出削減量をクレジットとして認証するカーボンクレジットのように、証書では再エネの発電量に基づいて環境的な価値を認証し、その属性(“発電日時、発電所、発電方式等”)を保証します[3]。
証書を取得した企業は、購入した再エネ発電量分を使用しているとみなされ、発電設備を持たなくても地球温暖化防止に向けた取り組みに貢献できます。
国内では、以下のようなカーボンクレジットや証書が、国や民間機関によって認証・発行されています[4]。
カーボンクレジット | J-クレジット、2国間クレジット制度(JCM)、ボランタリークレジット(民間主導) |
証書 | 非化石証書、グリーン電力証書 |
グリーン電力証書や非化石証書についてさらに詳しく知りたい方は、【グリーン電力証書とは?非化石証書・J-クレジットとの違いを徹底解説】や【非化石証書とは?メリットや注意点を徹底解説】をご覧ください。またRE100に活用できるトラッキング付き非化石証書についても、【トラッキング付き非化石証書の仕組みやメリットについて詳しく解説】で紹介しています。
[4]一般財団法人 電力中央研究所「カーボンクレジットの活用に関する動向と課題」
カーボンクレジットの種類
カーボンクレジットは、国連・政府が主導するクレジットと、民間の認証機関が主導するボランタリークレジットの2種類に分けられます。それぞれの代表的なクレジットは以下の表のとおりです[3]。
カーボンクレジットの種類 | 例 | |
国連・政府主導 | 国連主導 | 京都メカニズムクレジット(JI、CDM)など |
2国間 | 2国間クレジット制度(JCM)、その他パイロットプログラムなど | |
国内制度 | J-クレジット(日本)、CCER(中国)、ACCUs(オーストラリア)など | |
民間主導(ボランタリークレジット) | VCS、Gold Standard(GS)、ACR、CARなど |
国内のカーボンクレジット制度
ここでは、国内のJ-クレジット、地域版J-クレジット制度を紹介します。
J-クレジット
J-クレジットは、環境省や経済産業省、農林水産省が運営するベースライン&クレジットの仕組みに基づく制度です。
J-クレジット制度に登録されたプロジェクトは、2024年3月12日の時点で1,113件あり、クレジット認証量は累計で1,036万t-CO2に達しています[5]。※国内クレジット制度及びJ-VER制度からの移行プロジェクトを含みます。
またクレジットの平均落札価格は、2023年5月(第14回)に約1.401円/kWhとなっており、過去の推移は以下のグラフのとおりです[5]。
※平均値は、落札価格に当該落札トン数を乗じた合計を総販売量で除したもの。
参照:J-クレジット制度事務局「J-クレジット制度について(データ集)」
J-クレジット制度は、クレジットを購入してCO2排出量を相殺するカーボンオフセットや、温対法・省エネ法における報告、CDPやSBT、RE100といった国際的なイニシアチブの目標達成などに活用されています[6]。
J-クレジットについてさらに詳しく知りたい方は、【Jクレジットとは?制度の仕組みやメリットを詳しく紹介】をご覧ください。
[5]みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社 J-クレジット制度事務局「J-クレジット制度について(データ集)」
[6]みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社 J-クレジット制度事務局「CDP・SBT・RE100での活用」
地域版J-クレジット制度
地域版J-クレジット制度とは、J-クレジットの制度文書に沿って、地方公共団体が独自にクレジットの認証を行う制度です。運営中の地域版J-クレジット制度には、新潟県版J-クレジット制度、高知県版J-クレジット制度などがあります[7]。(2024年時点)
[7]みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社J-クレジット制度事務局「地域版J-クレジット制度」
注目されている背景
カーボンクレジットが注目される理由の一つは、気候変動問題への危機感から、世界全体でカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする取り組み)を実現しようという自主的な動きのほかに規制・報告義務、投資家からの期待が高まっているからです[8]。
温対法における企業の報告義務については、【温対法とは?省エネ法との違いや改正のポイントを詳しく解説】で詳しく解説しています。
[8]一般財団法人 電力中央研究所「カーボンクレジットの活用に関する動向と課題」
省エネや再エネ活用などの削減努力を行っても、どうしても削減しきれない排出量(残余排出)が存在します。そうした残余排出を相殺(オフセット)する手段として、企業がカーボンクレジットを活用しています。
また、諸外国のカーボンクレジット取引市場設立にならい、日本でも2023年10月11日に、東京証券取引所においてカーボンクレジット市場が開設されたことも注目される一因となりました[9]。開設以降、2024年3月6日までに国内の企業・地方公共団体など265者が取引参加者として登録し、約20万トン、総額5.3億円の取引が行われています[10]。
国際的にみると2019年にアメリカのCBL marketや、2021年にシンガポールのAir Carbon Exchangeなど、カーボンクレジットの取引プラットフォームが次々開設され、カーボンクレジットの発行量は、民間主導によるボランタリークレジットを中心として増加しています。例えば、主要なボランタリークレジット(VCS、GS、ACR、CAR)の発行量は、2017年から急増しており、2016年と2023年では約5倍の差があります。ただ近年は後述のデメリットに記載するボランタリークレジットへの批判もあり、2021年をピークにやや減少傾向にあります(2024年時点)[10]。
[9]JPX「カーボン・クレジット市場の市場開設日の決定について」
[10]経済産業省「カーボン・クレジット・レポートを踏まえた政策動向」
企業におけるカーボンクレジットのメリット
企業がカーボンクレジットを利用するメリットは3つあります。
- 売却益を得られる
- 温対法等の報告やRE100などに活用できる
- 新たな投資の獲得
売却益を得られる
企業は省エネや再エネ活用などの取り組みを通じて、排出削減量をt-CO2単位でクレジット化できます。クレジットを売却することで、企業は経済的利益を得られます。
温対法等の報告やRE100などに活用できる
カーボンクレジットは、温対法における企業の報告義務や、RE100をはじめとした国際的なイニシアチブの目標達成など、さまざまな目的に活用できます。
特に注目を集めているのが、投資家からの関心が高いRE100です。RE100とは、“事業活動で使用する電力を、全て再生可能エネルギー由来の電力で賄うことをコミットした企業が参加する国際的なイニシアチブ”です[6]。
例えば、J-クレジットを例に挙げると、再エネ電力由来のクレジットであれば、RE100達成のための再エネ調達量として報告できます[6]。
その他、投資家向けに企業の環境情報を提供するCDPや、パリ協定の温室効果ガス排出削減目標に基づくSBTなど、さまざまなイニシアチブへの参加にカーボンクレジットが役立ちます。
RE100についてさらに詳しく知りたい方は、【RE100とは?参加条件や取り組み事例を紹介】をご覧ください。
新たな投資の獲得
企業の環境対策へ高い関心を示す株主や投資家も存在します。特に機関投資家は、比較的長期の運用を行うことから、キャッシュフローや利益率などの財務情報だけでなく、非財務情報であるESG(環境・社会・ガバナンス)にも目を向けるようになっています[注16]。
カーボンクレジットの取引実績を積み重ねていくことで、新たな投資の獲得につながる可能性があります。
ESGについてさらに詳しく知りたい方は、【ESGの意味やSDGsとの違いをわかりやすく解説】をご覧ください。
[11]経済産業省 資源エネルギー庁「令和2年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2021)」
企業におけるカーボンクレジットのデメリット
一方、現状のカーボンクレジットにはデメリットも3つあります。
- 専門的な知識が要求される
- 市場の動向がわかりにくい
- 批判を受ける可能性がある
専門的な知識が要求される
カーボンクレジットは、国内だけでもJ-クレジット、海外由来のボランタリークレジットなど、さまざまな種類が存在します。クレジットの種類によって、認証主体や方法論が多様で、取り扱いや利用範囲が異なるため、取引に当たって専門的な知識が要求されます。
どのようなクレジットを調達すべきか判断しづらくクレジットの利活用に躊躇する経営者も少なくありません[1]。
市場の動向がわかりにくい
また東京証券取引所などの取引プラットフォームを除いて、クレジットの国内流通は、相対取引(売り手と買い手が直接取引すること)によって行われています。そのため、第三者はクレジットの価格や取引量など市場の動向がわかりにくく、投資回収予見性・調達予見性が低いというデメリットがあります[1]。
批判を受ける可能性がある
過去には、カーボンクレジットを利用する企業に対し、“排出削減の努力を後回しにし、クレジットによって足元の目標を達成しようとしている”という批判がなされた事例があります[12]。
カーボンクレジットの取引を行う際は、前提としてできるだけ排出量が減るように削減努力を行いつつ、どうしても避けられない不足分についてクレジットを利用することが望ましいでしょう。
[12]一般財団法人 電力中央研究所「カーボンクレジットの活用に関する動向と課題」
【まとめ】カーボンクレジットの仕組みやメリットについて知ろう
カーボンクレジットとは、企業が省エネや再エネ活用を通じて削減したCO2の排出量を、一種の手形のように認証・取引できる制度です。クレジット化することで企業は売却益を得られ、購入した企業はカーボンオフセットなどに活用できます。
国内における代表的なクレジットには、J-クレジットや地域版J-クレジットなどの種類があります。カーボンクレジットの仕組みや、メリット・デメリットについて把握しておきましょう。