自己託送とは?法人が再エネ調達とコスト削減を両立させる仕組みと導入の判断基準を徹底解説

2026.07.27
2026.07.27
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2050年のカーボンニュートラル実現に向け、企業には事業活動で使用する電力を再生可能エネルギー(再エネ)に切り替える「脱炭素経営」が強く求められています。特にRE100への加盟やサプライチェーン全体での排出量削減を目指す企業にとって、いかに効率的かつ低コストで再エネを調達するかは経営上の最重要課題の一つです。
こうした中、自社で所有する遠隔地の発電設備から、一般送配電事業者の送配電網を利用して自社拠点へ送電する「自己託送」という手法が注目を集めています。従来の小売電気事業者から購入するモデルとは異なり、コスト構造を自社でコントロールできる点が最大の魅力です。本記事では、自己託送の定義から、PPA(電力販売契約)との比較、2024年以降の制度改正、そして実務上の留意点まで、法人担当者が導入判断を下すために必要な情報を網羅的に解説します。

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自己託送とは?仕組みと基本要件

自己託送の定義と自営線との違い

自己託送とは、発電者が自ら維持・運用する発電設備で発電した電気を、一般送配電事業者の送配電網を利用して、自らが使用する需要場所へ送る託送供給の仕組みです。
混同されやすい概念に「自営線」がありますが、自営線は事業者が独自に敷設した電線を用いて直接送電する仕組みです。自営線は送配電網の制約を受けない一方、敷設コストが非常に高く、発電場所と需要場所が近接(数百メートル程度)している場合に限られます。これに対し、自己託送は既存の送配電網を利用するため、数百キロメートル離れた遠隔地からの送電が可能です。

2021年の要件緩和と「グループ自己託送」、2024年の要件厳格化

元来、自己託送は「自ら発電し、自ら使う」という原則に基づき、発電者と需要家が同一法人である必要がありました。しかし、2021年の制度改正により、この要件が緩和されました。

現在では、資本関係のあるグループ会社間や、生産工程で密接な関係がある事業者間での融通が可能となっています。さらに、発電事業者と需要家が組合を組成し、一定の要件を満たすことで、資本関係のない第三者の発電設備から電気を受け取ることも可能になりました。
これを「グループ自己託送」と呼び、法人がオフサイトから再エネを調達する際の有力な選択肢となっていました 。自己託送による電力供給では再エネ賦課金が課されないため、これに着目して自己託送を積極的に活用する事業者が増加しましたが、需要家の保有する自家用発電設備の有効活用という自己託送の制度趣旨に反し、実態としては他者から電気を調達し他者に供給していると解される案件が多く見受けられたことが問題視され、2024年に自己託送の要件が厳格化されました(4.にて後述)。

自己託送を導入するメリット・デメリット

自己託送が他の再エネ調達手法と比較して選ばれる理由は、主にコストと環境価値の透明性にあります。

コスト面:再エネ賦課金の免除と燃料費リスクの低減

自己託送では、自己託送として供給・使用される電力量について、通常の小売供給に係る再エネ賦課金の負担が生じないことが、経済的なメリットとなり得ます。

ただし、自己託送分を超える不足電力を小売電気事業者から購入する場合は、その購入分に再エネ賦課金がかかります。再エネ賦課金は、FIT(固定価格買取制度)の原資として全電力利用者が負担するもので、2025年度の再エネ賦課金は3.98円/kWhです。年度ごとに単価が見直されるため、導入検討時には最新年度の単価を確認する必要があります。自己託送はこの負担を回避できるため、大量に電力を消費する法人にとって大きなコスト削減要因となります。

また、自社(またはグループ内)の設備で発電するため、化石燃料価格の変動に伴う「燃料費調整額」の影響を受けません。昨今の世界的なエネルギー価格高騰に左右されない、安定した電力コストを実現できるのが特徴です。一方で、発電量が不足した際に小売電気を購入する部分には燃料費調整額がかかり得るほか、保守費、託送料金、インバランス料金等の変動要因も考慮する必要があります。

環境面:追加性のある再エネの確保

新設の再エネ発電設備を活用する自己託送は、再エネ導入拡大への寄与を説明しやすく、「追加性」を訴求できる場合があります。ただし、追加性は設備の新設時期、契約形態、支援制度の利用状況等によって評価が異なり、自己託送であることのみをもって一律に認められるものではありません。RE100・CDP等の個別基準も確認が必要です。

運用面:計画値同時同量とインバランスリスク

一方で、自己託送には「計画値同時同量」という非常に厳しい運用義務が伴います。これは、30分単位で「発電計画」と「需要実績」を一致させなければならないルールです。
もし発電量が計画より不足したり、需要が予想を超えたりした場合、その差分は「インバランス」として一般送配電事業者から補填を受けることになり、高額なインバランス料金を支払わなければなりません。この需給管理業務は専門的なノウハウを要するため、多くの場合、外部のアグリゲーター(需給管理代行業者)への委託費用が発生します。

表1:自己託送のメリット・デメリットまとめ

項目内容
メリット・再エネ賦課金(約4円/kWh)の支払いが不要
・再エネを活用した自己託送であれば燃料費調整額の影響を受けず、コストが安定
・「追加性」のある再エネとして国際的に評価される
デメリット・発電設備の資産保有リスク(自社保有の場合)
・30分同時同量の需給管理負担が重い
・インバランス料金の発生リスクがある

自己託送とPPA(オンサイト・オフサイト)の比較

法人が再エネを調達する際、自己託送と並んで検討されるのがPPA(Power Purchase Agreement)です。それぞれの特徴を理解し、自社の施設環境に合わせた選択が求められます。

 導入コストと資産保有の有無

オンサイトPPAは、自社拠点の屋根などに第三者が発電設備を設置し、初期投資ゼロで電気を購入する仕組みです。敷地内にスペースが必要ですが、自己託送のような託送料金もかかりません。(小売電気を購入する不足分には再エネ賦課金が発生します。)
一方、自己託送は遠隔地の土地を活用できるため、大規模な発電が可能です。ただし、自社で設備を保有する場合は多額の初期投資が必要となり、資産として計上されるため、財務戦略への影響も考慮しなければなりません。

コスト構造と削減効果の比較

自己託送とオフサイトPPA(小売経由)を比較した場合、最も大きな差は「再エネ賦課金」です。オフサイトPPAでは小売電気事業者が介在するため、原則として再エネ賦課金もかかります。これに対し、自己託送はこれらの費用を排除できるため、運用コストを抑えやすい構造にあります。

表2:自己託送・オンサイトPPA・オフサイトPPAの比較

比較項目自己託送オンサイトPPAオフサイトPPA
(小売経由)
発電場所遠隔地(敷地外)敷地内(屋根等)遠隔地(敷地外)
初期投資遠隔地(敷地外)不要不要
再エネ賦課金免除免除原則として発生
託送料金発生不要発生
主なリスク需給管理、故障リスク契約期間の縛り小売手数料、再エネ賦課金負担

2024年以降の制度見直しと実務上の注意点

自己託送を取り巻く制度は、公平な競争環境の整備や送配電網の維持を目的に、近年厳格化の傾向にあります。

賃借モデルの制限と要件の厳格化

これまで、需要家が発電事業者から設備を借りる「賃借モデル」による自己託送が一部で行われてきました。しかし、資源エネルギー庁は2024年1月より、自己託送の趣旨に反するとしてこの要件を厳格化しました。
具体的には、発電設備の所有と電力の消費に関する関係性がより厳しく問われるようになり、単なる「レンタルの形をとった電力購入」は自己託送として認められなくなっています。

導入に当たっては、設備の所有名義だけでなく、発電設備の管理・運営責任、発電者と需要者の密接な関係、電気の使用実態などを踏まえ、自己託送の要件を満たすスキームを設計する必要があります。賃貸借方式を採用する場合も、形式だけでなく実態に基づき判断されます。

発電側課金の導入による影響

2024年度より、送配電網の維持費用を発電事業者も負担する「発電側課金」が導入されました。自己託送の発電設備もこの対象となり、これまで需要側だけで負担していた託送料金の一部を発電側でも支払う必要があります。これにより、従来のコストシミュレーションよりも若干のコスト増となる可能性があるため、最新の制度に基づいた再試算が不可欠です。

自己託送の導入ステップと成功のポイント

自己託送は単なる電力契約の切り替えではなく、一つの「発電・送電プロジェクト」です。成功のためには、以下のステップを踏む必要があります。

導入に向けた体制構築

まず、自社の電力需要パターン(ロードカーブ)を詳細に分析し、どの程度の発電容量が必要かを算出します。次に、発電所の候補地選定、一般送配電事業者との協議、そして最も重要な「需給管理代行アグリゲーター」の選定を行います。
JEPX(日本卸電力取引所)のガイドによれば、取引会員となるには純資産1,000万円以上などの要件がありますが、自己託送の場合は直接JEPXで取引するよりも、アグリゲーターを通じて不足分を補填したり余剰分を売却したりする形態が一般的です。

蓄電池活用によるインバランス対策

自己託送の最大の課題であるインバランスリスクを軽減するために、近年では「再エネ+蓄電池」の組み合わせが推奨されています。太陽光発電は天候による出力変動が激しいですが、蓄電池を併設することで、30分同時同量の精度を飛躍的に高めることが可能です。
また、蓄電池は、発電量と需要量の差分を調整し、インバランスリスクを低減する手段となり得ます。市場価格を利用した「アービトラージ」を行う場合は、電力の売買スキーム、系統連系契約、BG運用、蓄電池の劣化・充放電効率等を踏まえた個別の事業性評価が必要になります。これらを組み合わせることで、事業全体の採算性を向上させる戦略も有効です。

まとめ:脱炭素経営における自己託送の戦略的位置づけ

自己託送は、再エネ賦課金の免除や燃料費リスクの回避といった強力な経済的メリットを持つ一方で、計画値同時同量の順守という高度な運用責任を伴う手法です。


2024年以降の制度厳格化により、安易な「賃借モデル」は通用しなくなりましたが、真に脱炭素経営を推進しようとする企業にとっては、追加性のある再エネを自らコントロールできる非常に透明性の高い手段といえます。
導入にあたっては、自社の財務状況(オンバランスの可否)や、アグリゲーターとのパートナーシップ、そして最新の発電側課金などの制度動向を総合的に勘案することが、長期的な成功の鍵となります。

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