CBAM(炭素国境調整措置)とは?日本の排出量取引制度への影響と企業の対策を徹底解説

2026.03.30
2026.07.08
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世界中で脱炭素(デカーボナイゼーション)への動きが加速する中、国際貿易の新たなルールとして注目を集めているのが「CBAM(炭素国境調整措置)」です。

特に欧州(EU)への輸出を行う企業にとって、CBAMは避けて通れない課題となっており、その影響は日本国内の制度設計にも波及しています。日本政府も、国際的な施策動向を踏まえつつ、2026年度からの「排出量取引制度」の本格稼働に向けてGX推進法の改正などを進めています。

本記事では、CBAMの基本構造から、日本の排出量取引制度の変遷、そして企業が今から取り組むべき対策について詳しく解説します。

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CBAM(炭素国境調整措置)の基礎知識

CBAM(Carbon Border Adjustment Mechanism)は、日本語で「炭素国境調整措置」と呼ばれます。これは、EU(欧州連合)が導入した、域外からの輸入品に対して、その製造過程で排出された二酸化炭素(CO2)量に応じた費用負担を求める仕組みです。

CBAMが導入された背景と目的

なぜこのような仕組みが必要になったのでしょうか。最大の理由は「カーボンリーケージ(炭素漏出)」の防止です。

EUのように厳しい環境規制を敷いている地域では、企業に高い炭素コストが課されます。すると、規制の緩い域外へ生産拠点を移転したり、規制の緩い国から安い製品を輸入したりする動きが出てしまいます。これでは地球全体での排出削減が進まないばかりか、EU域内の産業が不利になってしまいます。これを防ぐため、輸入品にも域内と同等の炭素価格を課し、公平な競争環境を整えるのがCBAMの狙いです。

対象となる業種と今後のスケジュール

CBAMは現在、移行期間にあります。まずは排出量が多い以下の「特定の6業種」が対象となっています。

対象業種主な製品例
鉄鋼鋼材、鉄管、ねじ、ボルトなど
セメントポルトランドセメント、クリンカーなど
アルミニウムアルミ板、アルミ箔、アルミ管など
肥料窒素肥料、アンモニアなど
電力域外からの輸入電力
水素水素ガス

【CBAMの実施スケジュール】

  • 移行期間(2023年10月〜2025年12月): 排出量の報告義務のみ。支払いは発生しない。
  • 本格実施(2026年1月〜): EU側の認可CBAM申告者に、年次のCBAM申告と証書の償却義務が生じる。

日本の「排出量取引制度」本格稼働へのロードマップ

EUのCBAM導入という国際的な潮流を受け、日本国内でも「カーボンプライシング(炭素への価格付け)」の議論が急速に進んでいます。特に注目すべきは、GXリーグにおける自主的な排出量取引の枠組み(GX-ETS)の進展です。

第1フェーズ(〜2025年度)の現状と課題

現在は、2025年度までの「第1フェーズ」として、企業の自主的な参加に基づく枠組みが運用されています。

第2フェーズ(2026年度〜)の法定化と変更点

2026年度からの「第2フェーズ」では、制度がより実効性の高いものへと進化します。政府は「GX推進法」を改正し、本格稼働後の排出量取引制度を法定化する方針です。

【本格稼働後の主な変更点】

  1. 参加の制度化: 多排出事業者等を念頭に置いた制度設計が議論されています。
  2. 業種特性の考慮: 鉄鋼や化学など、削減が困難な業種(ハード・トゥ・アベート)の特性を踏まえた柔軟な制度設計。
  3. 国際整合性: CBAMなどの国際的な施策動向を踏まえ、日本の製品が海外で二重に課税されないような仕組み作り。

GX推進法改正と「炭素価格」の予見性

政府は、2025年の通常国会でGX推進法が改正(※)されました。この改正の大きな目的は、企業が「いつ、どれくらいの炭素コストがかかるのか」という見通しを立てやすくすること(予見性の向上)です。

※出典:「GX推進法改正案をめぐる国会論議(参議院 )」

GX市場創造と製品価値の評価

脱炭素化には莫大な投資が必要です。企業が投資を決断するためには、低炭素な製品(GX製品)が市場で正当に評価され、高く売れる仕組みが欠かせません。

  • GX製品の価値評価: 製造過程での排出量が少ない鉄鋼やアルミニウムなどが、公共調達や民間取引で優先的に選ばれるよう、基準作りが進められています。
  • GX製品の市場創造(グリーンプライム市場の創出): 排出削減に積極的な企業の価値が市場で評価される環境を整備します。

企業の脱炭素投資を促進する仕組み

排出量取引制度は、単に「罰金」を科すためのものではありません。削減に成功した企業は、余った排出枠(クレジット)を売却して利益を得ることができます。

東京証券取引所では「カーボン・クレジット市場」が開設されており、J-クレジットなどの取引が行われています。2025年以降、この市場の機能はさらに強化され、企業の投資判断を支えるインフラとしての役割が期待されています。

日本企業への影響とカーボンリーケージ対策

CBAMや国内の排出量取引制度の本格化は、企業の経営にどのような影響を与えるのでしょうか。

 輸出企業が直面するコストと事務負担

EUへ対象製品を輸出している企業は、2026年から金銭的な負担が発生します。法的にCBAM申告・証書償却の義務を負うのは、原則としてEU域内の輸入者(認可CBAM申告者)です。ただし、日本の輸出企業も、価格交渉や排出データ提出対応を通じて実質的な負担を受ける可能性があります。

CBAMでは、製品ごとの埋込排出量(embedded emissions)として、直接排出量(Scope 1)だけでなく、電力使用に伴う間接排出量(Scope 2)などの報告も求められます。これらを第三者機関によって検証されたデータとして提出しなければならず、管理体制の構築には時間とコストがかかります。

国内制度との整合性と「公平性」の確保

もし、日本国内ですでに炭素税や排出量取引による負担を支払っている場合、EUのCBAM支払額からその分を差し引くことができる仕組みがあります。これを適切に利用するためには、CBAMのルールに沿って、原産国で実際に支払った炭素価格を適切に立証できることが重要です。

政府が排出量取引制度を法定化し、厳格な運用を目指しているのは、日本企業の二重負担を避け、国際的な競争力を維持するためでもあります。

【国内制度設計の3つの視点】

視点内容
 (1) 公平かつ実効的参加の義務化や、企業間・業種間の不公平をなくす
 (2) 柔軟性の確保業種ごとの技術的限界や特性を考慮した目標設定
 (3) 投資促進炭素価格の予見性を高め、脱炭素投資を後押しする

企業が今から準備すべき3つのアクション

CBAMの本格実施や国内制度の変更まで、残された時間は長くありません。企業は今、何をすべきでしょうか。

 排出量の算定・報告・検証(MRV)体制の構築

まずは、自社の排出量を正確に把握することが第一歩です。「MRV(Monitoring, Reporting, Verification)」と呼ばれるプロセスを社内に定着させる必要があります。

  • モニタリング: どの工程でどれだけCO2が出ているか記録する。
  • レポーティング: 規定のフォーマットに沿って報告書を作成する。
  • ベリフィケーション: 第三者機関による検証を受け、データの信頼性を担保する。

非化石電源への切り替えと省エネ投資

炭素価格が上昇する局面では、エネルギー消費そのものを減らすこと、そして使用するエネルギーをクリーンにすることが最強のコスト対策になります。

  • 再エネの導入: 太陽光発電の自社設置(オンサイトPPA)や、再エネ電力プランへの切り替え。
  • 高効率設備への更新: 老朽化した設備の更新は、GX推進法に基づく補助金などの活用も検討しましょう。

サプライチェーン全体での情報共有

CBAMの影響は自社だけにとどまりません。原材料の調達先(サプライヤー)が排出量の多いプロセスを抱えている場合、その製品の「炭素強度」が高まってしまいます。

サプライヤーに対しても排出削減を働きかけ、必要に応じてデータの提供を求める協力体制を築くことが、輸出競争力を維持する鍵となります。

【まとめ】CBAMと国内制度の動向を注視し、攻めの脱炭素経営を

CBAMは、単なる環境規制ではなく「貿易ルール」そのものです。2026年からの本格稼働に向け、EUだけでなく日本国内でもGX推進法の改正や排出量取引制度の法定化が進んでおり、企業の経営環境は一変しようとしています。

確かに、排出量の算定や炭素コストの負担は短期的には「コスト増」に見えるかもしれません。しかし、いち早く低炭素な生産体制を整えることは、欧州市場でのシェア拡大や、国内でのGX製品としての価値評価につながります。「規制されるから対応する」という受動的な姿勢ではなく、新しいルールを利用して自社の競争力を高める「攻めの脱炭素経営」へと舵を切るタイミングが来ています。まずは自社の排出状況の棚卸しから始め、最新の制度動向に常にアンテナを張っておきましょう。

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