排出量取引制度(GX-ETS)とは?仕組みや2026年度からの本格稼働、企業の対応ポイントを徹底解説

2026.05.27
2026.07.01
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日本の脱炭素戦略において、いま最も注目されている制度の一つが「排出量取引制度(GX-ETS)」です。政府は2050年カーボンニュートラルの実現と、産業競争力の強化を両立させる「脱炭素成長型経済構造(GX)」への転換を加速させています。その中核を担うのが、2026年度から本格稼働・義務化が予定されているGX-ETSです。

なお、制度初年度の2026年度は特例的なスケジュールが採られており、年度平均排出量の届出と移行計画の提出が先行し、排出目標量等合計量の届出や排出枠の割当ては2027年度に行われます。
本制度は、制度対象者からの届出等に基づき、政府が一定の基準の下で排出枠を無償で割り当て、制度対象者に対して毎年度の排出実績量と同量の排出枠を期限までに保有することを求める仕組みです。これにより、経済全体で効率的に排出削減を進めることが期待されています。

本記事では、GX-ETSの定義や具体的な仕組み、2026年度から本格稼働に向けた最新の動向、そして企業が準備すべきポイントについて、専門的な視点からわかりやすく解説します。

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排出量取引制度(GX-ETS)とは?

GX推進法と制度の背景

GX-ETSは、2025年6月に改正された「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律(GX推進法)」に基づき、制度運用が開始された排出量取引制度です。同法では、脱炭素成長型経済構造を「産業活動において使用するエネルギー等に係る二酸化炭素を原則として大気中に排出せずに産業競争力を強化し、経済成長を可能とする経済構造」と定義しています。

この移行を支える主要なツールが、カーボンプライシング(炭素への値付け)の一環であるGX-ETSです。GXリーグにおける自主的な枠組み等も踏まえつつ、法制度として実効性を高めることで、企業の脱炭素投資を促す狙いがあります。

2026年度からの本格稼働と義務化

2023年度からの試行期間を経て、2026年度(令和8年度)からGX-ETSは本格稼働のフェーズに入ります。第6回排出量取引制度小委員会で提示された「中間整理(案)」では、制度対象者や排出枠の割当指針、今後の発展の方向性が示されました。

特に、多排出産業に対しては参加の義務化が検討(※)されており、2030年度の排出削減目標(NDC)達成に向けた実効性が問われています。
※前年度までの直近3年度平均でCO2直接排出量が10万tCO2以上の事業者が制度対象となり、制度対象者には所定の届出・報告・排出枠保有義務が課されます。

なお、GX-ETSの対象は、CO2の直接排出(いわゆるScope1)です。電気・熱・蒸気の使用に伴う間接排出(Scope2)や、CO2以外の温室効果ガスは制度対象外です。

また、制度初年度の2026年度は特例的なスケジュールが採られており、年度平均排出量の届出と移行計画の提出が先行し、排出目標量等合計量の届出や排出枠の割当ては2027年度に行われます。制度初年度の2026年度に制度対象となる事業者は、4月1日からCO2直接排出量等の算定を開始し、9月30日までに年度平均排出量の届出と移行計画の提出を行う必要があります。

GX-ETSの具体的な仕組み

 ベンチマーク方式による排出枠の割当

排出枠の割当において重要な役割を果たすのが「ベンチマーク(BM)」です。これは、特定の業種において達成すべき排出効率(排出量/活動量)の指標です。
今回の制度設計では、製造業を中心とした14業種、17種類のBM指標が設定されました。BM水準は、基準年度の上位50%から、5年後の2030年度には「上位32.5%」まで引き上げることが目標とされています。

項目内容
対象業種鉄鋼、セメント、化学など計14業種 
BM指標数計17種 
2030年度目標水準業種内の上位32.5%
改善ペースの根拠省エネ法BM制度の経験
(10年で上位15%到達)に基づく 

例えば、セメント産業では「クリンカ生産量」を活動量の分母としてBMを算定しますが、クリンカ量を低減させた環境配慮型セメントの努力が反映されにくいといった課題も指摘されており、今後の精査が必要とされています。

超過削減枠とクレジットの活用

企業が設定された目標以上に排出を削減した場合、その「超過削減分」を排出枠として他社に売却することが可能です。また、自社の削減だけでは目標達成が困難な場合、外部の「カーボン・クレジット」を購入して義務履行に充てることができます。

現在、J-クレジットやJCM(二国間クレジット)が対象として示されていますが、利用上限は「各年度の実排出量の10%」と提案されています。ただし、これらのクレジット供給量が十分でないといった懸念もあり、量と質の両面での改善が図られる見通しです。

カーボンプライシングとしての価格設定

 2026年度の上下限価格案

GX-ETSでは、排出枠価格の急激な変動を防ぐため、上下限価格が設定されます。2026年度の公示案では、以下の水準が示されました。

  • 上限価格:4,300円/t-CO2
  • 下限価格:1,700円/t-CO2

2027年度以降は、実質価格上昇率(3%固定)と物価上昇率を加算していく仕組みとなっています。

国際的な炭素価格との比較

日本の設定価格は、国際的な動向と比較すると依然として低い水準にあります。国際エネルギー機関(IEA)の「Net Zero by 2050」では、先進国が2030年に目指すべき炭素価格を130ドル(約2万円弱)としています。また、欧州のEU-ETSでは既に80ユーロ(約1万3千円)程度で推移しており、日本の4,300円という上限価格は、欧州の3分の1程度に留まっています。

この価格差は、炭素国境調整措置(CBAM)との関係において、日本の制度が有効なカーボンプライシングとみなされるかどうかの懸念材料となっています。

有償オークションと発電部門への影響

2033年度からの有償化導入

排出枠を政府から購入する「有償オークション」は、2033年度から導入される予定です。当初の対象は発電部門に限定されています。

経済産業省の説明によれば、2033年時点での有償割合は「例えば10%」と低い水準から開始し、2050年のカーボンニュートラルに向けて段階的に引き上げていく方針です。

発電部門におけるベンチマークの課題

発電部門においては、2028年度まで「燃料種別(石炭、ガス等)」ごとのベンチマークが適用されます。しかし、これは石炭火力のフェードアウトを促すには不十分との指摘もあります。現時点での制度設計では、2029年度以降は、燃料種別水準と全火力水準をミックスさせ、徐々に全火力水準へとBMを近づけ、2033年度に全火力水準のBMに移行する方針となっています。

欧州のEU-ETSでは、発電部門は既に「原則オークション(全量有償)」に移行しており、これが再生可能エネルギーへの燃料転換を強力に後押ししました。日本の制度設計においても、2040年度に向けた電力部門の脱炭素化と整合させるための工夫が求められています。

 カーボン・クレジット市場での取引

東京証券取引所における売買

排出枠やクレジットの円滑な取引を支えるのが、東京証券取引所(東証)が運営する「カーボン・クレジット市場」です。2023年10月に正式開設され、J-クレジットやGX-ETSの「超過削減枠」が取引されています。

取引項目概要
売買対象J-クレジット、超過削減枠
売買単位1t-CO2
呼値の単位1円 [2]
約定方法板寄せ方式(午前11:30、午後15:00)
制限値幅基準値段の上下90%

J-クレジットと超過削減枠の取り扱い

J-クレジットは、省エネや再エネ、森林管理など、活用用途に応じた9分類で売買されます。一方、GXリーグ参画企業が創出する「超過削減枠」は、2024年11月から売買対象に追加されました。取引参加者は法人等に限定されており、インボイス制度への対応として適格請求書発行事業者であることが求められます。

企業のGX戦略と今後の展望

GX2040ビジョンと市場創造

政府は、2040年を見据えた「GX2040ビジョン」の策定を進めています。ここでは、データセンターや半導体産業の電力需要増に対応するための脱炭素電源投資や、水素・アンモニアのサプライチェーン構築、さらには「デコ活」(※)を通じた国民の行動変容などが盛り込まれる予定です。

特に、GX製品の「価値の見える化」が重要視されており、グリーンな素材を使用した製品が市場で適正に評価される仕組みづくりが進められています。

※「デコ活」:CO2を減らす脱炭素(Decarbonization)と、環境に良いエコ(Eco)を含む「デコ」と、活動・生活を意味する「活」を組み合わせた言葉(出典:経済産業省 「デコ活宣言」

GHGプロトコル改訂への対応

排出量算定の国際基準である「GHGプロトコル」も改訂作業が進んでおり、Scope 2(購入電力等に伴う排出)において「時間整合性(アワーリー・マッチング)」や「追加性」といった厳格な要件が導入される見通しです。

一方で、GX-ETSは主として国内のCO2直接排出を対象とする制度であり、GHGプロトコルに基づくScope 1~3の算定・開示とは、目的や対象範囲が異なります。 

そのため、企業としては、GX-ETSへの制度対応と、GHGプロトコルに基づく開示実務への対応を分けて整理することが重要です。例えば、非化石証書のトラッキング情報が全量付与されるようになるなど、電力由来の環境価値に関する透明性向上が進展しています。

【まとめ】GX-ETSの本格稼働に備え、早期の対策を

排出量取引制度(GX-ETS)は、単なる環境規制ではなく、企業の産業競争力を左右する経済制度へと変貌を遂げようとしています。2026年度の本格稼働に向けて、自社の排出量の正確な把握はもちろん、ベンチマーク水準の確認、超過削減枠の創出、あるいはカーボン・クレジットの調達戦略の立案が急務です。

また、2033年度からの有償化や、国際的な炭素価格の上昇、GHGプロトコルの厳格化など、中長期的なリスクと機会を見極める必要があります。政府によるGX経済移行債を活用した投資支援策なども活用しながら、脱炭素成長型経済構造への転換を、自社の成長へと繋げていく姿勢が求められています。

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