CCSとは?仕組みや法整備、2040年に向けた役割と企業への影響を徹底解説

2025.01.23
2026.07.27
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地球温暖化の進行を食い止めるため、世界各国が「2050年カーボンニュートラル」を掲げ、脱炭素化に向けた取り組みを加速させています。日本においても、再生可能エネルギーの導入拡大や省エネの徹底が進められていますが、鉄鋼、化学、セメントといった製造業や発電部門など、どうしても排出をゼロにすることが難しい分野が存在します。
こうした「脱炭素化が難しい分野」におけるGX(グリーン・トランスフォーメーション)を実現するための有力な選択肢の一つとして期待されているのが、CCS(Carbon dioxide Capture and Storage:二酸化炭素回収・貯留)技術です。2024年には「CCS事業法」が成立し、2030年までの事業開始に向けた環境整備が急速に進んでいます。本記事では、CCSの基本的な仕組みから、最新の法規制、2040年度に向けたエネルギー需給の見通し、そして企業の炭素管理に与える影響まで、実務者が知っておくべき全体像を詳しく解説します。

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CCSとは?その仕組みと安定化のメカニズム

CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)は、工場や発電所から排出される二酸化炭素(CO2)を他のガスから分離して回収し、地中深くの安定した地層に封じ込める技術です。この章では、CCSの具体的なプロセスと、なぜCO2が地中で安定して留まり続けるのかについて解説します。

CCSの基本プロセス

CCS事業は、大きく分けて「分離・回収」「輸送」「貯留」の3つのプロセスで構成されます。まず、排出源においてアミン吸収法などの技術を用いてCO2を回収します。次に、回収されたCO2を液化または圧縮し、船舶や導管(パイプライン)を用いて貯留地点まで輸送します。
最終的に、地下約1,000~3,000mにある「貯留層」と呼ばれる地層まで井戸を掘り、地中の圧力と温度を活用してCO2を圧縮した状態で注入します。

地中におけるCO2の安定化メカニズム

地中に注入されたCO2が漏れ出さないためには、貯留層の上部にCO2を通さない「遮蔽層(フタとなる泥岩などの地層)」があることが前提となります。貯留されたCO2は、時間の経過とともに以下の4つのメカニズムによって安定化に向かいます。

段階メカニズム概要
第1段階地下構造による閉じ込め遮蔽層の下にある地下構造にCO2が物理的に留まる。
第2段階隙間への閉じ込め砂岩層などの岩石の微細な隙間にCO2が保持される。
第3段階地層水への溶解CO2が周囲の地層水に溶け込む。
第4段階鉱物化長期的には、CO2が周辺の岩石と反応して炭酸塩として固定される。

日本国内でも、新潟県長岡市や北海道苫小牧市において貯留実証が行われており、現在まで安定的に貯留されていることが確認されています。

日本におけるCCS事業の現状と法整備

日本政府は2030年までに民間事業者がCCS事業を開始できる環境を整備することを目標としています。これを支える柱となるのが、2024年5月に成立した「CCS事業法」です。

CCS事業法(貯留事業法)の創設

これまで、日本にはCO2の地中貯留を包括的に規定する法律がありませんでした。新たに制定された「二酸化炭素の貯留事業に関する法律(CCS事業法)」は、公共の安全維持と海洋環境の保全を図りつつ、事業の予見可能性を高めるための許可制度などを整備したものです。
この法律の施行時期は三段階に分かれており、探査(2024年8月施行済み)、試掘(2024年11月施行予定)、貯留・導管輸送(2026年5月まで)と順次進められます。

先進的CCS事業の採択とロードマップ

日本の年間CO2排出量は約10.4億トン(2022年度)ですが、近海の有望11地点で合計160億トンの貯留ポテンシャルがあると推計されています。政府は多様なCCS事業モデルの構築を目指し、2024年度には「先進的CCS事業」として9件の案件を採択し、設計作業などの支援を行っています。

CCS事業における規制と保安体制

CCS事業は、高圧のガスを扱うという点で、既存の石油・天然ガス開発やガス事業と類似したリスク管理が求められます。

貯留事業者・導管輸送事業者への保安規制

貯留事業者は、公共の安全維持のために保安規程の策定や保安教育の実施、作業監督者の選任が義務付けられます。また、CO2の漏洩がないかを確認するため、貯留層の温度や圧力を継続的にモニタリングしなければなりません。導管輸送事業についても、ガス導管事業に準じた技術基準への適合や工事計画の届出、定期的な自主検査が課されます。特筆すべきは、試掘や貯留事業に起因する損害賠償責任について、事業者の故意・過失を問わない「無過失責任」が適用される点です。

試掘権・貯留権の許可制度

経済産業大臣は、貯留層の可能性がある区域を「特定区域」として指定し、公募により最も適切な事業者に許可を与えます。許可を受けた者には「試掘権」や「貯留権」が設定されます。これらは「みなし物権」として扱われ、安定的な事業運営のための法的地位が確保されます。

2040年度に向けたエネルギー需給の見通しとCCSの役割

2025年1月に発表された「2040年度におけるエネルギー需給の見通し」では、CCSが日本のエネルギー構成において不可欠な役割を果たすことが示されています。

複数シナリオにおけるCCSの導入量想定

資源エネルギー庁は、技術進展やコスト低減の不確実性を踏まえ、複数のシナリオで分析を行っています。その中で、CCSが積極的に活用されるシナリオでは、2040年度に年間約1.2億トンのCO2を回収・貯留することが想定されています。

シナリオCCS導入の方向性2040年度のCO2回収量(見通し)
CCS活用シナリオ回収・輸送・貯留技術のコスト低減が進む1.2億トン程度
革新技術拡大シナリオ再エネ、水素、CCSをバランスよく活用0.9億トン程度
技術進展シナリオ既存技術中心、革新技術の進展が限定的0.5億トン程度

排出削減コストと国際的な炭素価格の動向

CCSの導入において最大の課題はコストです。2040年度の限界削減コスト(CO2を1トン削減するために必要な追加費用)は、日本において467ドル/t-CO2と推計されており、EU(396ドル)や米国(257ドル)と比較しても高い水準にあります。国際エネルギー機関(IEA)は、1.5℃目標達成のために先進国が2030年に目指すべき炭素価格を130ドルとしていますが、日本の現状(地球温暖化対策税:289円/t-CO2)とは大きな乖離があります。今後、GX-ETS(排出量取引制度)の本格稼働に伴い、炭素価格が上昇することで、CCSの経済合理性が高まっていくことが予想されます。

企業の脱炭素戦略への影響と今後の展望

CCSは単なる技術的な課題にとどまらず、企業の炭素会計や情報開示の実務に大きな影響を及ぼします。

カーボン・クレジット市場とJ-クレジットの活用

東京証券取引所では、2023年10月にカーボン・クレジット市場を開設しました。現在はJ-クレジットや超過削減枠が取引の対象ですが、将来的に、CCS由来の削減量や除去量の扱いが制度上整理されれば、環境価値として評価・取引される可能性があります。ただし、GX-ETSの義務履行に活用できるクレジットの上限は「各年度の実排出量の10%」とする案が出されており、量と質の両面での議論が続いています。

 GHGプロトコル改訂による算定・報告への影響

企業が排出量を算定・報告する際の国際基準である「GHGプロトコル」は、現在大規模な改訂作業が進められています。改訂案は2027年に最終化される見通しです。特に注目すべきは、Scope 2における「アワリーマッチング(時間単位のマッチング)」や「追加性」の要件導入です。CCSを伴う火力発電由来の電力を調達する場合、その「環境価値」がどのように評価されるかが大きな論点となります。また、Scope 3の算定が一部義務化される方向であり、サプライチェーン全体の排出削減手段としてCCSを含めた脱炭素技術の重要性が増すことになります。

【まとめ】持続可能な未来に向けたCCSの可能性

CCSは、2050年カーボンニュートラルという野心的な目標を達成するために避けて通れない技術です。2024年のCCS事業法成立により、事業化に向けた法的な基盤が整い、2030年の商用化に向けたカウントダウンが始まりました。企業にとっては、自社の排出削減手段としてCCSを検討するだけでなく、GHGプロトコル改訂やGX-ETSの進展を注視し、炭素コストを経営判断に組み込むことが求められます。また、CCSは地域住民の理解が不可欠な事業であり、国や事業者による丁寧な説明と、地域経済への貢献を両立させる「日本型CCSモデル」の構築が期待されます。脱炭素成長型経済構造への転換をリードする技術として、CCSは今後、日本の産業競争力を左右する重要な鍵となるでしょう。

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