COP30後の脱炭素経営|2025年ブラジル会議を終え日本企業が取り組むべきSBT・GX戦略を徹底解説
2025年11月、ブラジルのアマゾン川河口に位置する都市ベレンで開催された「国連気候変動枠組条約第30回締約国会議(COP30)」は、パリ協定の採択から10年という大きな節目を迎え、歴史的な幕を閉じました。現在、2026年10月を迎えた日本において、企業が直面しているのは「目標を掲げる段階」から「具体的な削減成果を証明する段階」への完全な移行です。
COP30では、2035年に向けた各国の新たな温室効果ガス削減目標(NDC)が焦点となり、1.5℃目標との整合性を保つための「野心の引き上げ」が再確認されました。これを受け、日本企業にはグローバルサプライチェーンにおける競争力を維持するため、より高度な脱炭素戦略が求められています。
本記事では、COP30後の国際動向を踏まえ、日本企業が取り組むべき具体的なアクションと、最新のGX(グリーントランスフォーメーション)戦略について詳しく解説します。
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目次
COP30を終えた国際情勢と日本企業の立ち位置

2025年末に開催されたCOP30は、気候変動対策における「実行の10年」の後半戦を告げる重要な会議となりました。ブラジル・ベレンというアマゾンの象徴的な地で開催されたことで、森林保全と脱炭素の両立が大きなテーマとなりました。
パリ協定10年、1.5℃目標達成への最終局面
2015年のパリ協定採択から10年が経過し、世界全体の排出量は依然として1.5℃目標達成のための経路(パスウェイ)から乖離しています。2023年のCOP28で実施された「グローバル・ストックテイク(GST)」の結果を受け、各国は2035年に向けた次期削減目標(NDC)の提出を進めており、COP30はその実効性が問われる場となりました。
日本政府は、2030年度の46%削減に加え、2035年度に60%削減、2040年度に73%削減する目標を設定しています(いずれも2013年度比)。これらを盛り込んだ新たなNDCを2025年2月18日に提出しました。
2035年目標(NDC)の更新と企業の役割
国家目標は、国内の規制や産業政策を設計する際の重要な前提となります。(※ただし、企業への具体的な義務は、各国・地域の法令や制度の対象範囲、施行時期によって異なります)。日本では、一定規模以上のCO2直接排出を行う企業を対象とする排出量取引制度が2026年度から本格稼働する制度設計となっており、2028年度には化石燃料賦課金の導入が予定されています。
企業にとっては、単なる環境貢献活動としての脱炭素ではなく、炭素税や排出量取引制度(カーボンプライシング)への対応を含めた経営戦略そのものが問われる時代となりました。特に、グローバルに展開する日本企業は、輸出先である欧州や北米の規制と整合性を取る必要があり、COP30以降の国際合意に基づいた迅速な対応が不可欠です。
COP30の主要合意と加速するエネルギー転換

COP30は2025年11月10日から22日まで開催され、グローバル・ムチラオ決定などを含む「ベレン・ポリティカル・パッケージ」が採択されました。主な内容には、1.5℃目標に向けた緩和の加速、NDC未提出国への早期提出の呼びかけ、適応資金の3倍化に向けた努力の呼びかけなどがあります。
一方、化石燃料からの移行に関するロードマップは正式な交渉成果には盛り込まれず、議長国主導で別途進める取組となりました。成果と残された課題の両面を捉える必要があります。これは、企業のエネルギー調達コストや投資判断に影響する内容を含んでいます。
世界全体の再エネ発電容量3倍・エネルギー効率改善率2倍に向けた取組
COP28で合意された「2030年までに世界全体で再生可能エネルギーの発電設備容量を3倍にし、エネルギー効率の改善率を2倍にする」という目標は、COP30以降、各国で具体的な導入プログラムへの落とし込みが求められています。
日本においても、GX投資を通じて、太陽光や風力だけでなく、次世代型太陽電池(ペロブスカイト)などの社会実装が加速しています。
CCS(CO2回収・貯留)と水素社会への投資加速
排出削減が困難な産業(ハード・トゥ・アベート)分野においては、CCS(Carbon Capture and Storage)の重要性が増しています。2024年5月に成立し、2026年5月から全面施行されている「二酸化炭素の貯留事業に関する法律(CCS事業法案)」を受け、2030年までの事業開始に向けたプロジェクトが本格化しています。
また、2024年5月に成立した水素社会推進法により、低炭素水素等の供給・利用を促進する制度が整備され、事業化に向けた支援が進められています。
アジアの脱炭素化を牽引するAZECの進展
日本は自国の削減のみならず、アジア全体のGXを支援する「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)」を推進しています。これは、化石燃料への依存度が高いアジア諸国の事情に配慮しつつ、日本の技術とファイナンスを提供することで、地域全体のカーボンニュートラルを目指す枠組みです。
アジアに生産拠点を持つ日本企業にとって、AZECの枠組みを活用した現地での脱炭素投資は、案件の内容や現地のエネルギー事情に応じて、サプライチェーンの排出量削減につながる可能性があります。(※AZECはCOP30とは別の地域協力の枠組みです)
※参考:経済産業省 アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)
日本企業に求められる3つの脱炭素対応

COP30後のビジネス環境において、企業が優先的に取り組むべきアクションは以下の3点に集約されます。
SBT(Science Based Targets)のScope別要件と基準更新への対応
2026年に適用されているSBTiの短期目標認定基準(Corporate Near-Term Criteria V5.3.1)では、Scope 1・2に最低限1.5℃水準が求められる一方、Scope 3の短期排出削減目標では、原則として最低限WB2℃水準が認められています。
旧基準で認定を受けた企業は、原則として少なくとも5年ごとに目標を見直し、適用基準に適合しない場合は更新・再認定を行う必要があります。
また、短期目標とネットゼロ目標を統合したネットゼロ基準(Corporate Net-Zero Standard V2.0)に基づく目標申請は2027年第1四半期(2027年2月1日)から開始予定です。2028年1月31日までは現行のネットゼロ基準(V1.3.1)とV2.0のいずれでも申請でき、2028年2月1日以降はV2.0が必須となる移行予定が示されています。(※なお、これらはSBTiの基準であり、COP30が日本企業にSBT認定取得を直接義務付けたものではありません)。
Scope 3算定の高度化とGHGプロトコル改訂への備え
排出量算定の国際基準である「GHGプロトコル」の改訂作業が進んでいます。2026年7月公表の開発計画では、GHGプロトコルとISOの基準調和を進めながら、企業向けの各基準を統合する方針が示されています。統合草案の公開意見募集は2027年第2四半期、改訂基準の公表は2028年第4四半期が予定されています。
特に、サプライチェーン排出量(Scope 3)については、これまでの「平均的な排出係数を用いた推計(セカンダリデータ・二次データ)」から、サプライヤーから提供される「実測値(プライマリデータ)」に基づいた算定へと精度を高めることが求められています。
| 検討領域 | 2026年の開発計画に基づく説明 | 公表予定 |
| Corporate Standard | Scope 1に限らず、組織境界・算定・報告等の共通要件を検討 | 統合改訂基準:2028年第4四半期予定 |
| Scope 2 | 電力等の算定・報告方法を検討 | 統合改訂基準に組込み予定 |
| Scope 3 | データ品質、算定方法、対象範囲等を検討 | 統合改訂基準に組込み予定 |
| Actions and Market Instruments | 行動・市場手段の効果を透明に報告する枠組みを検討 | 統合改訂基準に組込み予定 |
※「基準の公表時期」と「企業への適用開始時期」は異なります。
グリーンファイナンスとGX経済移行債の活用
脱炭素投資には巨額の資金が必要ですが、これを支える金融環境も整備されています。日本政府は2023年に示したGX政策の枠組みで、10年間に150兆円超の官民GX投資を目指し、「GX経済移行債」を活用した20兆円規模の先行投資支援を進めています。企業は、これを財源とする個別の支援制度について、対象要件や公募条件を確認することが重要です。
法人は、グリーンボンドの発行やトランジション・ファイナンスを、脱炭素投資の資金調達や投資家との対話に活用できます。
【事例】SBT認定取得済み日本企業の削減目標と取組

多くの日本企業がすでにSBT認定を取得しており、COP30後の厳しい国際基準に適合した目標を運用している企業もあります。資料に基づき、主要企業の目標水準を整理しました。
1.5℃目標を設定する主要企業の動向
現在、SBT認定を取得している企業の多くで、Scope 1+2において2030年度に向けた大幅な排出削減やネットゼロを目指す取り組みが進んでいます。
SBT認定を取得した日本企業の例として、環境省資料に掲載された、2019年度等を基準に2030年度の排出総量削減目標を設定している6社を紹介します。
| 企業名 | 目標水準 | Scope 1+2目標(中期) | Scope 3目標 |
| パナソニック ホールディングス | 1.5℃ | 2030年までに90%削減 | 2030年までに販売した製品の使用による排出量を30%削減 |
| キリンホールディングス | 1.5℃ | 2030年までに50%削減 | 2030年までに30%削減 |
| サントリービバレッジ&フード(旧社名:サントリー食品インターナショナル) | 1.5℃ | 2030年までに50%削減 | 2030年までに30%削減 |
| ソフトバンク | 1.5℃ | 2030年までに82.8%削減 | 2030年までに14.8%削減 |
| 三井不動産 | 1.5℃ | 2030年までに46.2%削減 | 2030年までに39.2%削減 |
| 三菱電機 | 1.5℃ | 2030年度までに42%削減(2021年度比) | 2030年度までに30%削減(2018年度比) |
※環境省資料の2024年3月1日時点の認定目標。削減率はすべて2019年比。Scope 3は各社の認定対象範囲。
これらの企業に共通しているのは、自社の直接排出であるScope 1と、購入した電力・熱等の使用に伴う間接排出であるScope 2だけでなく、購入した製品・サービスや販売した製品の使用に伴う排出(Scope 3)に対しても明確な削減目標を設定している点です。
サプライヤーへの働きかけとエンゲージメント
自社単独での削減には限界があるため、先進的な企業はサプライヤーに対してSBT水準の目標設定を求める「エンゲージメント」に取り組んでいます。
例えば、積水ハウスは目標として、2027年までに、購入した製品・サービスに伴う排出量の65.8%をカバーするサプライヤーに、科学的根拠に基づく削減目標を設定してもらうことを掲げています。また、ロッテは、2027年度までに、購入した製品・サービス、資本財、輸送・配送(上流)に伴う排出量の80%をカバーするサプライヤーに、科学的根拠に基づく削減目標の設定を働きかける方針を公表しています。
【まとめ】COP30以降の勝ち残り戦略は「実行」と「透明性」

COP30を終えた今、日本企業に求められているのは「野心的な目標」を「確実な実行」へと移すことです。2026年10月の現時点において、脱炭素対応は、短期的な費用負担を伴う一方で、取引継続、規制対応、エネルギー調達、企業競争力にも関わる経営課題となっています。企業が今後取り組むべき要点は以下の通りです。
- SBT目標の点検・更新:Scope別の適用要件、認定時期、定期見直しの期限、V2.0への移行予定を確認する。
- サプライチェーン連携の強化: 重要カテゴリのデータ品質を高め、サプライヤーと削減策を実施する。
- GX投資の戦略的活用:政府の支援策やGX経済移行債などを活用するために対象要件を確認し、投資計画に組み込む。
- 情報開示の透明性向上: GHGプロトコルの改訂動向を注視し、投資家や取引先に対して信頼性の高い排出量データを開示すること。
COP30を経て改めて確認された1.5℃目標の重みを自社の経営戦略に同期させ、いち早く実行に移すことが、持続可能な企業価値の向上につながります。
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